通常国会がきょう召集される。「安倍1強」の政治状況の中、政府、与党はおごることなく、丁寧な説明を心がけるとともに、反対意見に耳を傾け論議を尽くす、そうした運営に努めてもらいたい。
 安倍晋三首相自らが「働き方改革国会」と名付けたように、提出予定の改革関連法案が論戦の焦点となろう。
 その柱は、過労死・過労自殺ゼロに向けた長時間労働の是正であり、格差是正を目指し2千万人を超す非正規労働者の待遇改善を図る「同一労働同一賃金」の導入である。
 働く人の命と健康、そして暮らしを守るための変革であり、与野党が真摯(しんし)に話し合い合意を得て実施に移すべきテーマだ。数の力で押し切ることなどあってはならない。
 そう求めるのは、関連法案には幾つかの問題があるからだ。まずは時間外労働(残業)規制。企業に「単月100時間未満」を義務付ける。
 青天井だった残業時間に罰則付きで上限が設けられるのは大きな前進だが、100時間は繁忙期の労災認定の目安である過労死ラインだ。それで働き過ぎによる死をなくせるのか疑問である。より厳しい上限とすべきではないか。
 二つ目は、関連法案は一括審議が見込まれ、「高度プロフェッショナル(高プロ)制度」の導入、裁量労働制の対象拡大も含まれることだ。
 高プロは高給の一部専門職を労働時間規制から外す。残業代はゼロだ。裁量労働制は実際の労働時間に関係なく、あらかじめ決めた時間を働いたとみなす。いずれも長時間労働を助長しかねない。
 政府は、これらを残業時間規制強化と抱き合わせで審議し、一緒くたに賛否を問うという。法案自体に大きな矛盾があるのに、である。
 加えて、法の施行延期案がある。法案は当初、昨秋の臨時国会で審議が予定されながら首相の突然の衆院解散で、国会提出が先送りされた。法成立後に十分な周知期間が必要なため、来年4月施行が1年程度延期されかねない。
 社会問題化した電通の新入女性社員の過労自殺以降も、過労死は後を絶たない。正規と非正規の格差是正と共に、残業規制は待ったなしの課題だ。政権の都合で実施が先延ばしされていいわけがない。
 政府は一括審議を求めず法案を分離して提出。残業規制や同一労働同一賃金を先行審議し早く実施に移すべきだ。高プロ制や裁量労働拡大は慎重に問題点を掘り下げたい。
 国民の命を守ることは政治の根源的責務だ。経営者目線の「働かせ方」ではなく、働く人の視点に立つ「働き方」改革の審議で、優先されるべきは企業の生産性ではない。働く人の命と健康であることは言うまでもあるまい。
 問われるのは安倍政権の姿勢だ。働き方改革を含む重要法案に先立つ本年度補正、新年度当初両予算案の審議でも「国民第一」の論戦を望む。