15歳の時、旧優生保護法下で、知的障害を理由に不妊手術を強いられた宮城県内の60代女性が訴えの声を上げた。
 子を産み育てるという基本的権利を奪われた女性は「国は重大な人権侵害を放置し救済を怠った」とし、国に損害賠償を求める全国初の訴訟をきのう仙台地裁に起こした。
 旧法は「不良な子孫の出生防止」を目的に1996年まで半世紀近く存在した。そのために、障害のある多くの男女が希望の未来を奪われた。
 人の尊厳を冒す非人道的行為である。国は救済の姿勢を速やかに示すべきだ。
 訴状によると、原告は72年に「遺伝性精神薄弱」との診断を基に審査され、手術を受けたことが県の台帳で分かっている。しかし、別の開示資料には「遺伝負因なし」と記されており、形だけの審査の可能性がうかがえる。
 国は「当時は適法だった」と強弁し原告への謝罪や補償の求めに一切応じていない。法は改定されても、被害者に背を向け差別を広げた責任から逃れることはできまい。
 記者会見した弁護団は「個人の尊厳を認めた憲法13条に反する違法な手術で、自己決定権を侵害された」と語った。
 訴訟では、不法行為から20年過ぎると賠償請求権が消滅する民法の除斥期間の問題が争われるとみられる。しかし原告は周囲の偏見の怖さから長い間、被害を言い出せない弱い立場にあった。その点は十分踏まえる必要があろう。
 弁護団は、2004年に当時の坂口力厚生労働相が被害者救済の必要性について国会で言及した点を重視。「その後も政府は救済に向けた取り組みを行っておらず、立法措置を怠ってきた」と国の不作為を追及する構えだ。
 全国で手術を受けたとされる約2万5千人のうち、宮城県は9歳女児を含め859人に上る。個人名が記された19道県約2700人分の資料が現存していることも最近判明したが、既に廃棄されて被害を裏付けられない人の方が圧倒的に多いのが実態だ。
 国や自治体は資料の保存状況を再確認し積極的に開示すべきだ。その意味でも今回の提訴は、全ての被害者の救済実現に向け全国的運動のきっかけをつくる可能性がある。
 同様の法律があったスウェーデンやドイツは1990年代までに国の過ちを認め補償を行っている。あまりにも日本政府の人権感覚は鈍い。
 一昨年、相模原市の知的障害者施設で起きた殺傷事件。殺人罪などで起訴された被告は「障害者は不幸しか生まない」などと語り、考えを改めていない。優生思想は私たちの社会に魔物のように生き続け、形を変えて噴き出す恐れがあることをわきまえたい。
 原告の義姉は「裁判を通じて、障害者が生きやすい社会につなげたい」と言う。強制手術は遠い過去に負った傷ではない。現在進行形の痛みとして共有せねばならない。