日本産科婦人科学会が、臨床研究として行ってきた新出生前診断を一般診療で実施することを正式に決めた。染色体異常を理由にした命の選別につながる可能性があるとして、慎重な議論が求められたが、発達する医療技術を押しとどめるのはもはや困難だ。
 新出生前診断は、流産のリスクもある羊水検査に比べ、採血だけで母体の負担が小さいのが利点。海外で開発、商品化された。検査を適切に運用するための遺伝カウンセリングの基礎資料を作成し、体制を整備するなどの臨床研究名目で、2013年4月に各地の大学病院など15医療機関で導入された。現在は89施設が認定されている。
 認定施設の医師らの共同研究チームによると、17年9月までに5万1139人が検査を受け、陽性は933人。このうち781人が確定検査を受け、陽性確定は700人。9割超の654人が中絶、26人は妊娠を継続したという。
 学会は「遺伝カウンセリングの重要性が確認された」などを挙げて一般診療化に踏み切るが、倫理の議論は追いつかず、なし崩し的に拡大される印象が強い。時間的猶予のない中、地方では受診できる施設が近隣になく、希望者が多いため予約も取りにくく、検査を望む妊婦が無認定の施設に流れている実態もある。
 当面は従来通り、35歳以上や、過去に染色体異常のある赤ちゃんを出産した妊婦らに限定し、専門医による遺伝カウンセリングも要件とする。
 ただし、無認定施設では「年齢不問、来院1回」、短時間の事前説明で、結果通知後のフォローもないというケースもある。保険外診療で、検査が20万円前後、さらにカウンセリング費用も。需要は高く、医療機関にとっては割がいい検査となり得る。
 まずは受診した妊婦やパートナーが何を感じ、どんなサポートを必要としたかの丁寧な検証が不可欠だ。
 診断結果を受け、妊娠を継続するかどうかは、あくまで「自己決定」だとされる。しかし、その背景に「生まれる子は健康でなければならない」、そのために「検査を受けなければならない」という無言の圧力がないだろうか。
 「不良な子孫の出生防止」を掲げる旧優生保護法下で、強制的に不妊手術を受けた被害者が声を上げ始めた。蛮行を当たり前のように認めてきた価値観は、私たちの社会に潜在する。
 経済性や効率性を重視し、金銭的な価値を生まないものは排除しようとする。高齢者や障害者を支える福祉の現場で働く人たちの賃金も社会的評価も不十分なままだ。
 過去の世論調査で、出生前診断の容認派は79%。理由は「異常が分かれば出産後の準備に役立つから」が最多だった。重い結果を知らされたカップルを孤立させず、どんな子も、安心して産み育てられる社会でありたい。