長く連れ添った夫婦のどちらかが亡くなった時、残されたパートナーの遺産相続をどう支えるかは重要な視点だ。
 政府は、相続時の遺産分割で、配偶者を優遇する規定を盛り込んだ民法改正案を閣議決定し、国会に提出した。見直しは38年ぶり。加速する高齢社会を見据えた妥当な改革だろう。
 改正の柱は二つ。自宅に住み続けられるよう「居住権」を新設する。配偶者はこの権利を遺産分割時の選択肢の一つとして取得できる。さらに婚姻期間が20年以上の夫婦なら、配偶者が生前贈与で譲り受けた住宅や土地は遺産分割の計算対象から外す。
 日本人の平均寿命(2016年)は男性80.98歳、女性87.14歳。この数値を基にすれば「夫に先立たれた妻」が具体的パターンとして浮かぶ。弱い立場に陥りがちな高齢女性を守るべき配偶者として想定した意味は大きい。
 1人で住み慣れた家にとどまり、生活資金が確保できるかどうかは女性の方がリスクが高く切実な問題だからだ。新制度がこうした不安の解消につながる可能性は高い。
 居住権は所有権とは別に設けられ、評価額は低く抑えられる見通し。従来は遺産分割のために自宅の売却を余儀なくされるケースも少なくなかった。その懸念がなくなることは大きな前進だろう。
 また、自宅が遺産相続分に算入されなければ、預貯金などの取り分が増えることになる。配偶者の暮らしに相応の余裕が出るのは間違いない。
 手を携え長く苦楽を共にしてきた夫婦の道のりを思えば、配偶者をできる限り優遇するのはもっともだ。
 ただ、法相の諮問機関、法制審議会での議論は、法律婚や旧来の家族制度に重きを置きすぎた感も否めない。
 発端は最高裁が13年、婚外子の相続格差は平等原則に反するとし違憲判断を下したことだ。「法律婚の配偶者の権利を手厚くすべきだ」という反発が自民党内などから浮上。そんな経緯で相続法制の議論が積み上げられた。
 一般への意見公募では「法律婚の配偶者だけを優遇する理由はない」などの反対論も多くあったが、法案の原則は大筋で変わっていない。
 正式な結婚の形態にこだわらない人たちは増えている。高齢者同士の再婚では、入籍せず事実婚を選ぶケースもある。多様な家族の形に対応する柔軟な措置がもっと広く検討されてもよかった。
 改正案では、故人の介護などを通じ遺産維持に貢献した親族が、相続人に金銭を請求できる制度も新設された。
 長男の妻など相続の権利がない親族が該当するが、対象を広げる見直しなどは今後の検討事項としてほしい。
 肝心なことは遺産トラブルのない社会にすること。法改正を契機に、遺言などで報いるべき人に自分の意思を伝えておくことも大切だ。