雲行きが一気に変わってきた。「無風」とみられていた9月の自民党総裁選だ。
 主要派閥を束ねる安倍晋三首相(党総裁)の連続3選が確実視されていたが、学校法人「森友学園」への国有地売却を巡る財務省の決裁文書改ざんが発覚し、政権の足元が揺らいでいる。
 3月中旬の報道各社の世論調査では、安倍内閣の支持率はいずれも30%台に急落。不支持が支持を上回り、森友文書改ざんに対する国民の厳しい目が浮き彫りとなった。
 「数の力」で圧勝し求心力を高めるのが首相の3選戦略だが、政権基盤にほころびが生じてきたのは明らかだ。
 前回2015年の総裁選は無投票だった。今回は石破茂元幹事長、野田聖子総務相が挑む姿勢を示す。首相と石破氏が争った12年以来、実に6年ぶりの選挙戦となる。
 政権奪還後の「安倍政治」は5年を超えた。この間、「1強」体質の弊害がいくつも指摘されてきた。
 重要政策を巡る党内論議は、不足してきた印象が否めない。集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法を巡り、議論が熱を帯びなかったのは象徴的だ。
 閣僚の失言や議員の不祥事も相次いだ。森友、加計学園問題では首相が繰り返した「丁寧な説明」は尽くされず、政権全体のおごり、緩みは消えなかった。
 総裁選の前哨戦は「アベノミクス」に代わる経済政策、憲法改正のビジョンはもちろん、森友文書改ざんでさらに鮮明になった1強体質の弊害を大きな論点とすべきだ。
 首相は出身の細田派(94人)麻生派(59人)二階派(44人)を支持基盤とする。党所属国会議員405人の半分近い197人を固める。これを背景に無派閥の多くや額賀派(55人)岸田派(47人)地方票の取り込みを図る。
 ただ、政権の失速で党内には「ポスト安倍」をにらむ神経戦が浮かび上がる。首相からの「禅譲」狙いと目される岸田文雄政調会長は慎重発言にとどまるが、森友問題については「すっきりしない国民のいら立ちがある」と述べた。
 石破派(20人)を率いる石破氏は「国民は忘れる、となめてはいけない」と指摘。総裁選では憲法改正を争点化する考えを示す。「国防軍」を盛り込んだ12年党改憲草案を基に9条2項削除案を主張。1、2項を維持し自衛隊を明記する首相案を批判する。
 無派閥の野田氏は前回、推薦人20人を集められず立候補を断念したが、今回は首相が容認する。12年総裁選で石破氏が党員・党友の地方票で首相を圧倒したことを念頭に政権批判票を分散させる狙いがあるとみられる。
 国会議員と党員・党友による投票とはいえ、最高権力者が決まる選択である。関心は一般国民にも広がる。「安倍政治」5年の総括と是非を巡る論戦が不可欠だ。