身から出たさびと言えようか。安倍政権が今国会の最重要法案と位置付ける「働き方改革関連法案」の行方に暗雲が漂っている。
 今月6日に提出された法案の審議入りが見通せず、6月20日までの会期内に成立できるかは厳しい状況だという。
 思うに任せぬ審議日程もさることながら、何のための改革なのか政府の方向性がはっきりしないのが、この法案の最大の難点ではないか。
 法案の柱の一つとして当初入っていた裁量労働制が尾を引いている。野党は、昨年行われた裁量労働制の違法適用に対する特別指導に関連し「政府が過労自殺を隠していたのでは」と追及。不信感を募らせている。
 11日の衆院厚労委員会が流会になり、対決モードが表面化している。次々に浮上する政権絡みの疑惑も影響して国会日程が窮屈になる中、審議時間の確保はぎりぎりと見られている。政府は誠意ある説明に徹するしかあるまい。
 発端は政府が1月、裁量労働制の乱用を許さないという実例として、大手不動産会社への特別指導をアピールしたことだ。実際には2016年にあった男性社員の過労死が指導に至るきっかけだったとみられている。
 加藤勝信厚生労働相は今月10日まで過労死の事実を認めず、長時間労働による自殺だったかについても「差し控える」と言葉を濁している。
 都合の良い取り締まり部分だけを公表し、過労死には口をつぐんでいたと指摘されても仕方あるまい。
 裁量労働制の対象拡大を巡っては、根拠となるデータの正確性が疑われ、法案から全面削除された。だからと言って不問にできる話ではない。
 過労死隠しが事実なら法案全体の信頼性に関わる。加藤氏は過労死の事実をいつから知っていたのか。明確に説明する責任がある。
 特別指導をした東京労働局の前局長が会見で「何なら皆さんの会社に是正勧告してもいいんだけど」と脅しまがいの発言をし更迭された。行政権の恣意(しい)的行使につながる暴言は、働き方改革を進める側の見識の低さを示している。
 今回の改革論議は15年にあった電通新入社員の過労自殺を機に活発化。長時間労働の是正を図るのが趣旨だ。その原点がかすんでいないか。
 そもそも残業時間の上限を最長月100時間未満に規制する新基準と、一部専門職を労働時間規制から外す規制緩和策の「高度プロフェッショナル制度」をひとまとめにしたことに無理がある。
 高プロ制度は「超裁量労働制」とも言われ野党が反対している。紛糾は必至だろう。
 国民生活に深く関わる法案であるのは間違いない。同一労働同一賃金の導入は一致できるはずだ。時間がない中でも議論を尽くす努力は欠かせない。拙速な審議で結論を急ぐ愚を犯してはなるまい。