乱用されれば、国民の権利が大幅に制限される懸念がある。極めて危険な条文案と言わざるを得ない。
 自民党の憲法改正推進本部がまとめた改憲4項目の一つ緊急事態条項だ。大規模災害時、内閣が法律と同等の効力を持つ緊急政令を制定できることと国会議員の任期延長の二つが柱となっている。
 緊急政令については「大地震その他の異常かつ大規模な災害」が発生し、国会による法律制定を「待ついとまがないと認める特別の事情」がある時を要件にした。
 条文案からは「大地震」がどの程度の災害なのか、どのように「待ついとまがないと認める」と判断するのかは全く読み取れない。
 明確な歯止めがないまま内閣に立法機能が与えられれば、乱用の恐れとともに国民の私権制限に拡大しかねない。「国権の最高機関」である国会から権限を奪うことにもつながってしまう。
 国会議員の任期延長の議論は、東日本大震災がきっかけと言われる。被災地の首長選や議員選は特例法の制定で延期されたが、国会議員の任期は憲法に定めてあるためだ。
 ただ、衆参両院議員の選挙が重なることはめったになく、参院は定数の半分が3年ごとに改選される仕組みで非改選組が残る。衆院解散中には立法機能として参院の緊急集会が代替できる。任期の延長幅も示されていない。延長後の選挙日程が時の政権に有利になるように設定される可能性も排除できない。
 もともと自民党は2012年の改憲草案に大規模災害のほか武力攻撃や内乱・テロも想定し、国などの指示に従わせる私権制限を盛り込んだ。
 公明党などの理解を得やすくするため条文案への明記は見送られたものの、当初案には内閣は要件を満たせば「政令を制定し財産上の支出その他の処分を行うことができる」と記されていた。
 これは現行法制で対処可能だ。災害対策基本法は国会閉会中、内閣が生活必需品の統制などの政令を出すことができると定めており、改憲の合理的理由は判然としない。
 政府への権限集中を巡っては、東日本大震災を経験した自治体に違和感が広がる。災害対応に取り組む自治体への権限移譲や情報共有こそが、迅速な救援につながることが浮き彫りになったからだ。
 大規模災害の発生時、政府がなすべきは権限を集めることではない。法整備や予算確保といった被災自治体への後方支援に徹することである。
 加計学園を巡る「首相案件」や森友学園に関する財務省の決裁文書改ざん、自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)が次々と明らかになった。政府への国民の不信感は増すばかりだ。
 こうした状況で議論は深まるはずもない。安易な政府への権限集中は国民主権を崩す恐れすらある。国家権力の強化は必要ない。