不祥事続きで逆風を受ける安倍政権のふらつきが、政策推進にも影響してきたのか。
 安倍晋三首相が今通常国会の施政方針演説で強調した放送制度の見直しのことだ。改革の焦点とされた、番組の「政治的公平」を定めた放送法4条の撤廃が、政府の規制改革推進会議の「検討課題」に盛り込まれなかった。
 放送業界の反発を受け首相が「無理しないでおこう」とブレーキをかけたとされる。政策の内容とは別に、政権の足元がそこまで弱まっているとすれば見過ごせない。
 もともと見直し案は疑問の多い内容だったといえる。
 動画配信するインターネット通信と放送との垣根を取り払うのが基本的な趣旨だ。そのためにNHK以外のテレビ事業を事実上、解体しネットと融合。公平性のほか「事実を曲げない」「多角的な論点を提示」といった放送法4条の規定を撤廃して、新規参入を促す狙いだった。
 ネット番組に出演した体験もある安倍首相は「電波の有効利用に向けて大胆な改革を進めていく」と1月の施政方針演説で力説した。一部民放の厳しい報道姿勢に不満を抱いていたこともあり、新メディアの登場を期待する政権側の底意が透けて見えた。
 4条撤廃で多様な番組が提供されるメリットがあるとしても、参入が容易になればかえって偏向番組やヘイトスピーチ(差別的言動)、虚偽のニュースがあふれる恐れがある。これらをたれ流すことは許されまい。
 放送界の検証機能は、NHKと民放各社でつくる第三者機関「放送倫理・番組向上機構(BPO)」がある。国の干渉を排し番組の問題点をチェックするBPOの役割は放送法の趣旨にかなうものだ。
 3月に見直し案が明らかになって以降、民放を中心に「放送が果たしてきた公共的役割が考慮されていない」などと反発が拡大。自民党にも「言論や民主主義に関わる」と慎重論が相次いでいた。
 今回、推進会議がまとめた検討課題は「通信・放送の融合によるビジネスモデル」「多様で良質な番組の提供」などで、放送法も含め具体的な説明はほとんどない。
 相次ぐ疑惑や不祥事で政権の求心力が低下する中、中央突破に踏み込まなかった弱気の姿勢は従来の「安倍1強政治」からして異例といえる。
 もっとも、首相が抜本改革を諦めたわけではないとの見方は根強い。政権が安定を取り戻したら「4条撤廃論が再燃する可能性もある」と関係者は警戒している。
 肝心なことは視聴者がどんなコンテンツを求め、どのような情報通信社会を望んでいるかだ。放送業界側もネット時代に即した、より優れた番組制作に取り組んでほしい。
 安倍政権は今回、模様眺めに転じたのを機に改革の利点をしっかりと見極めた上で、公正な議論を進めるべきだ。