綿密に練られたシナリオ通りだったのだろうか。北朝鮮の完全な非核化に向け、明確な意思と行動を確認する場とはならなかった。
 10年半ぶりの南北首脳会談がきのう、融和ムードの高まりの中、軍事境界線のある韓国側の板門店で開かれた。
 韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が初めて膝詰めで協議。共同宣言で両首脳は「南北は完全な非核化を通じ、核のない朝鮮半島を実現するとの目標を確認した」と表明した。
 漠然とした内容で日米など国際社会が求める「完全で、検証可能な後戻りできない非核化」とは隔たりが大きい。「新たな歴史の出発点」とうたった割には、期待外れの印象が拭えない。
 しかも「朝鮮半島の非核化」は、在韓米軍撤退も含む南北双方の取り組みを指す。従来の北朝鮮の主張の焼き直しにすぎないのではないか。
 6月初旬にも開かれる米朝首脳会談に引き継がれさらに議論を深めることになろう。
 北朝鮮は宣言内容をどう実行していくのか。口先だけでなく行動を通じ、具体的な核兵器廃棄の工程計画を示さねばならない。安倍晋三首相も「具体的な行動に期待する」とくぎを刺している。
 宣言では、現在も休戦状態にある朝鮮戦争(1950~53年)の終戦宣言を年内に行い、「平和協定」に転換する。米中を交えた4カ国で推進することも合意した。
 朝鮮半島の平和構築は非核化とリンクする重要な課題だ。正式な戦争終結は北朝鮮に対する米国の敵視政策をストップさせ、体制の保証を取り付ける根拠になるからだ。
 「体制保証と米軍の軍事的脅威がなくなれば、核を保有する理由はない」と今年3月に韓国特使団に伝え、非核化議論に火をつけたのは金氏自身である。
 国家体制の永続こそ北朝鮮の最終目標だ。この脈絡から言っても、北朝鮮は半島の平和に向けた取り組みとともに、核放棄を速やかに実行に移す必要がある。
 これまでのように問題を先延ばしして、様子を見ながらその都度見返りを求める手法は到底許されまい。
 安倍首相が文氏に提起を要請した拉致問題は、宣言の中には見当たらなかった。トランプ氏も米朝会談で議題に取り上げることを請け合っているが、もとより他国に頼るような問題ではない。
 北朝鮮が今後、注力するという経済建設の道筋では日本の経済支援が不可欠だ。政府はさまざまなチャンネルから日朝会談を自力で設定する努力を行うべきだろう。
 朝鮮戦争の休戦協定から65年。平和協定の道筋を付け、共同宣言に最低限「非核化」の文言を盛り込んだ。それも歴史の一歩とはいえる。このことが東アジアの実質的な平和と安定にどうつながるか。ゴールはまだ先にある。