北朝鮮の非核化とともに、トランプ米政権が深く関与するもう一つの「核問題」は解決の道筋が見通せない。
 イランが2015年に欧米各国など6カ国との間で結んだ核合意のことだ。内容に不満を持つトランプ氏が離脱をちらつかせ、関係国に見直しを求めている。その期限が5月12日に迫ってきている。
 中東情勢の安定を目指すイラン核合意が破綻し、米国が対決姿勢に転じる事態になれば世界の核不拡散体制が揺らぎかねない。当事国は崩壊阻止に全力を挙げるべきだ。
 フランスのマクロン大統領が先日、「新たな合意」の枠組みを提案した。米国の引き留めを前提に、弾道ミサイル開発の規制、長期的な開発制限の継続、イランの影響力の抑制-を追加条項の形でまとめ検討し直すという。
 そもそも核合意は、イランが秘密裏に進めていた核開発の大幅な制限と引き換えに、多国間の協調で経済制裁を解除したという経過だ。
 イランは原油や天然ガスの輸出などが可能になり経済的な安定を保ってきたが、他国は合意以降、イラン国内に築いた経済利権を手放せないという事情を抱えている。
 危ういながらもバランスを保っていた合意体制に、後からトランプ氏が割って入った図式だ。「イランが弾道ミサイルの使用やテロ組織支援を続け、イスラエルに脅威を与えている」と主張する。
 もともと中東内で武力衝突のリスクもはらむ中、長年の交渉によって築いてきた合意である。国連安保理決議で承認され、国際原子力機関(IAEA)もイランの順守を認める報告書をまとめている。
 自国の利益や盟友国優先の独善的な外交で国際秩序をかき回すべきではなかろう。今からでも自制を求めたい。
 トランプ氏の言動はむしろ地球温暖化防止の世界的枠組み「パリ協定」や環太平洋連携協定(TPP)からの離脱など、前政権の政治的遺産を否定する姿勢の一環に映る。
 イラン敵視政策は、秋の中間選挙を前に米国内の対イラン強硬派を勢いづかせよう。そんな思惑もちらつく。
 マクロン氏の新提案について、イランのロウハニ大統領が「核合意はゼロか全てかの選択肢しかない」と、譲歩しない姿勢を鮮明にしている。まとまる見通しは暗い。
 それ以上に問題なのは、米国が核合意を破棄した場合の影響だ。イラン外相は自国の離脱はもちろん、核拡散防止条約(NPT)からの脱退もほのめかしている。核開発を再開させる可能性が極めて高い。合意維持へ当事国の冷静な判断が求められる。
 米国が押さえ付けようとすれば、それだけ信頼を損ねてイランの核保有に道を開くことになりかねない。トランプ氏にその認識があるのか。北朝鮮の核危機に直面しながら、さらに新たな危機を抱え込む愚は犯すべきでない。