遺族にとっては、やりきれない思いが募る判断だろう。子どもを亡くした悲しみに加え、長期間、訴訟を背負い続け、今後も続く心理的な負担は察するに余りある。
 東日本大震災の津波で死亡・行方不明になった石巻市大川小の児童23人の19遺族が市と宮城県に損害賠償を求めた訴訟の控訴審で、市は8日、市と県が敗訴した仙台高裁判決を不服として、上告すると決めた。この日招集された市議会臨時会は、上告に関する議案を賛成多数で可決。県も市の判断に従って、上告する方針という。
 亀山紘市長は7日、上告の方針を固めた理由について「あの大災害を予見できただろうか」と述べ、控訴審判決に疑問を投げ掛けた。しかし、判決が「予見すべきだ」と指摘したのは、東日本大震災の津波ではなく、高い確率で予想されていた宮城県沖地震による津波だ。
 上告の是非を判断する上で判決の解釈に誤解があったとしたら問題だ。亀山市長は8日の臨時会では「宮城県沖地震の予見可能性を吟味した」と発言を修正した。
 判決は、高い確率で起きるとされた宮城県沖地震(連動型)を踏まえ、揺れや津波で堤防は壊れる恐れがあったのに、大川小の危機管理マニュアルでは避難場所すら定めていなかったと指摘。「事前の備え」に不備があり、対策を怠ったことが惨事につながったと認定した。
 上告理由について、亀山市長は「校長や教頭らに専門家並みの知識を求めるのは無理がある」と主張している。
 確かに、判決は学校保健安全法に基づき、教職員らに極めて高度の安全確保義務を求めた。これに対しては学校現場から「忙しい」「専門家ではない」という声が上がっている。だからといって、子どもの生命を守れないのでは本末転倒だ。判決が求める水準と現実に落差があるのなら行政はその差を埋める努力を急ぐべきだ。
 判決は市教委の責任にも言及した。震災前に作成・提出された大川小の危機管理マニュアルについて、市教委が確認・指導してこなかったという落ち度を認めた。
 実際、控訴審で市側は「マニュアルの作成状況を確認したり、不備の是正を求めたりした記録はない」と答えている。市はまず、自らの怠慢を反省するべきだろう。
 訴訟に至った過程では、市や市教委による遺族への不用意な発言や心ない対応があった。そのたびに遺族を傷つけ、さらに上告で感情を逆なですることに市は思いをはせるべきだ。
 児童74人、教職員10人が犠牲となった惨事を教訓に、どの学校も安全な場となってほしい。そんな遺族の切実な願いに応えたのが今回の控訴審判決だった。市は法解釈の是非を争うよりも他にすることがあるのではないか。