北朝鮮の全面的な核廃棄を巡る米朝首脳会談は、6月12日、シンガポールで開催されることが明らかになった。それに先駆けて、北朝鮮に拘束されていた米国人3人が解放された。米朝関係の改善に向けた北朝鮮側の強い意志の表れと言える。
 日本人拉致問題の解決を最重要課題とする日本にとって米朝首脳会談はかつてない好機である。10日には米側から安倍晋三首相に電話協議の申し入れがあり、トランプ大統領と拉致問題解決で連携する意思を再確認したという。
 拉致問題の早期の解決に向けては、米国だけでなく中国、韓国、ロシアとの協力を取り付けるのも不可欠だ。国際犯罪である拉致は人権という普遍的な価値への挑戦であるという認識を共有したい。
 北朝鮮の急激な融和姿勢を引き出したのは、言うまでもなく軍事攻撃も辞さない構えの米政権の強硬姿勢だ。安全保障政策を担当する大統領補佐官に共和党内でも超タカ派として知られるボルトン氏が就任した人事が大きい。
 北朝鮮に対して厳しい姿勢を崩さないポンペオ国務長官と両輪で、トランプ氏の最側近として外交安全保障政策を支えている。米朝の軍事的な緊張の高まりで、北朝鮮の対米姿勢が想像を超える軟化に転じたと見ていい。
 日本がこれまで一貫して取り続けてきた北朝鮮に対する圧力路線が「功を奏していない」という一部の批判は、的を射ていない。米国の強硬姿勢に加え、事実上の経済封鎖に等しい国際社会の圧力が最近の北朝鮮の変化を生んだのは明らかだろう。
 昨年12月の国連安全保障理事会の制裁決議は、最低限の原油供給を除いてほぼ全ての輸出入を禁じ、海外の北朝鮮労働者を2年以内に送還する極めて厳しい内容だ。外貨獲得の道が閉ざされ、経済が崩壊するほかないという危機感からの姿勢転換である。
 日程と開催場所は決まったものの、米朝会談の行方はむろん見通せない。成否は金正恩朝鮮労働党委員長が米国が求める「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」を受け入れるかどうかに懸かる。
 拉致問題が会談の議題に上るのは確定的と見ていいだろうが、早期の解決に結びつくかはやはり不透明だ。残念ながら拉致に関する日朝間の認識の隔たりは、なお大きいと言わざるを得ない。
 現在の米政権は、歴代のどの政権よりも日本人拉致問題に詳しく、また、強い共感を示してもいる。家族会が悲願としてきた「拉致被害者全員の即時一括帰国」の実現に向けた好機の到来と捉え、日米の連携をより強化したい。
 北朝鮮への中途半端な譲歩は禍根を残す。北が何より欲するのは、米国による体制保証と日本の経済支援を置いて他にない。この原点に立ち返れば拉致問題解決への光が見えてくるのではないか。