◎高齢者の不調と漢方薬の効果/漢方内科科長石井正教授

<戦国武将も愛用>
 皆さん、年を重ねるごとに疲れやすい、すっきりしない、眠れない、など何となく体調がすぐれないことはありませんか? 特に複数の病気を抱え、治療を受けながら生活している方は、ちょっとしたことで体調を崩しやすくなります。何となくすっきりしない体調に悩まされるとき、心と体を一緒に元気にするにはどうしたらいいでしょうか?
 ここで漢方の出番です。日本の漢方の歴史は1500年以上あり、国内の風土や文化、生活習慣に合わせて使用法も工夫されてきました。戦国時代には、多くの武将たちが戦で刀傷を負い、傷が化膿(かのう)した時には漢方薬で治療をして回復し、活躍を続けていました。享年75歳と当時としては長寿だった徳川家康も漢方薬の知識に精通しており、自己の体調管理をしていました。
 現在、医療保険で使用が可能な漢方薬は148種類あります。最近では、かかりつけ医の90%以上が漢方薬を処方していると報告され、風邪のひき始めに「葛根湯」が選ばれるだけではなく、複数の漢方薬が健康維持に用いられるようになってきました。

<安全使用へ指針>
 高齢者のさまざまな不調に対して漢方薬を安全に使用する活動も広がりを見せ、2015年には日本老年医学会から漢方薬治療の指針が発表されました。
 その中に、認知症に伴って不眠や興奮、夜間の徘徊(はいかい)などで困るときは「抑肝散(よくかんさん)」、脳血管障害の後に誤嚥(ごえん)性肺炎を繰り返す場合には「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」、慢性の呼吸器疾患で体力や気力が低下した際には「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」、慢性の便秘には「大建中湯(だいけんちゅうとう)」や「麻子仁丸(ましにんがん)」が効果的であると記載され、高齢者が困るさまざまな症状を漢方薬で軽減できることが詳しく説明されています。
 これらの漢方薬に共通するのは、困った症状を緩和するだけではなく、元気を取り戻す生薬も一緒に含まれている点です。まさに心と体のバランスを整えて、何となく不健康な状態から健康に導いてくれます。
 東北大病院では、高齢者が悩むさまざまな症状に対しての漢方薬治療を研究してきました。ご紹介した抑肝散、半夏厚朴湯、大建中湯の効果を示す臨床研究は東北大病院から報告されたものです。
 歴史のある伝統医学を現在の医療の中でどのように活用していくか、これからも漢方薬の効果に関した研究を進めていき、病気の治療だけではなくちょっとした体調不良にも対応できる漢方薬で、皆さんが生き生きとした生活が送れるようお手伝いできればと思います。