立春は過ぎたが、まだまだ寒さ厳しい季節。東北各県には、身も心も癒やされる温泉地や湯煙の宿が数多くある。顔に限らず、心意気、行動力でも魅力的な「イケメン」の若旦那たちに、自慢のご当地を案内してもらおう。

◎温泉地を行く(5)湯野浜温泉(山形・鶴岡)

<浜のプーさん>
 ゴウゴウと吹き付ける風に、次々と押し寄せる白波。毎年夏に約30万人の海水浴客でにぎわう観光地が見せるもう一つの表情は日本海の厳しい冬そのものだ。
 目の前に荒々しい光景が広がる鶴岡市・湯野浜温泉の竹屋ホテルに着くと、専務の佐藤航さん(37)が迎えてくれた。
 2015年に開かれた「第1回やまがた若旦那選抜総選挙」(県旅館ホテル生活衛生同業組合青年部主催)に、「浜のプーさん」のキャッチコピーを掲げて臨み、見事1位に輝いた。
 「気軽に声を掛けてもらえるようになり、お客さんとの距離が縮まるきっかけになった」と佐藤さん。笑顔は本家の「くまのプーさん」をほうふつとさせる。
 宿屋の一人息子で4代目。実は若い頃、家業を継ぐのをためらった。だが、別の道を志して上京した先で、慣れ親しんだ地元の海の美しさや、食べ物のおいしさに気付いたという。

<寒鱈汁が誘う>
 北風で冷えた体を温めてくれるのは、そんな湯野浜の自然の恵みだ。地下に潜った海水が地熱で温められた温泉の成分は海水とほぼ同じ。肌に塩分が付着して汗の蒸発を防ぎ、体を芯から温める。「暖房を入れると暑くなってしまうほど、体がポカポカします」と佐藤さんは太鼓判を押す。
 さらに体を温めてくれるのは庄内の郷土料理「寒鱈(だら)汁」。具は脂の乗ったマダラの身、アラ、脂ワタ(肝臓)、白子。みそで味付けし、ネギ、豆腐、岩ノリを加える。庄内では冬の間、毎週末のようにどこかで寒鱈(だら)祭りがある。湯野浜でも1~2月ごろ、ほとんどの宿が夕食に出す。
 魅力あふれる温泉街ながら、道を行き来する人が少なくなり、飲食店や商店の数も減ってしまった。だからこそ、佐藤さんは改めて古里・湯野浜の良さを多くの人に伝えたいという思いを深くしている。
 湯野浜のセールスポイントは、自然の恵みそのもの。全国でも海と白浜と温泉が共存している場所は多くはないという。いつでも好きなときに海を見て、砂浜で遊び、温泉に入ることができるぜいたくがある。
 「地元の人は都会の便利さを求めて出て行ってしまうけど、湯野浜の良き田舎の魅力を伝えたい」。佐藤さんの言葉に熱がこもる。(山形総局・阿部萌)

[メモ]湯野浜温泉はJR鶴岡駅から路線バスで約40分。旅館16軒、民宿4軒があるほか、共同浴場2軒と足湯もある。今年の海開きは7月14日の予定。シーカヤックの貸し出しなどのイベントを計画している。連絡先は鶴岡市観光連盟(市観光物産課内)0235(25)2111。