「一隅を照らす これすなわち国宝なり」。自らが置かれた場所で光りを放ち、社会を照らす。CSR(企業の社会的責任)の根底にある精神に通じる。地域経済を回し続ける企業の今を見詰める。(「被災地と企業」取材班)

◎トモノミクス 被災地と企業[24]第5部 一隅(1)よそおう

 CSR(企業の社会的責任)の原点が、東日本大震災の被災地で暮らす生活者の隣にあった。
 美容師笠松麗(うらら)さん(37)=宮城県亘理町=は週末、長男翔耀(しょうよう)ちゃん(2)と名取市の美容室に出勤する。翔耀ちゃんは保育士に抱っこされ、安心した様子で母親の働く姿を見つめる。
 石巻市に本社を構え、被災地を中心に美容室18店舗を展開するラポールヘア・グループ。各店舗には、従業員も客も無料で利用できる託児室がある。
 笠松さんは名取手倉田店勤務。平日は翔耀ちゃんを保育園に預ける。「土日も仕事だから託児室がないと働けない。働く姿をそばで見てもらえば、働く意義や楽しさも伝えられる」

 2014年5月、入社2日後に妊娠が分かった。退社も覚悟したが、会社から「育児休暇を取って戻ってきて」と声を掛けられた。今は「2人目も欲しい」と仕事と育児が両立できる職場環境に満足する。
 ラポールヘアは岐阜県出身の早瀬渉社長(40)が震災後の11年7月に起業した。「働く場をつくることが復興につながる。雇用創出こそ経営者の仕事」と考え、石巻に1号店を開いた。
 20代で美容サロンを創業し、全国展開した。震災時は美容大手モッズ・ヘアジャパンの運営会社の役員。キャリアを捨て、ゆかりのない地に踏み立った。
 早瀬社長は被災地で、業界の課題に向き合った。美容師の女性は結婚や出産を機に辞めるケースが多い。美容師の資格を持つ人は約120万人で、現役は50万人弱。残る70万人の半数は働きたくても働けない子育てママと言われる。
 宮城県の沿岸被災地の有効求人倍率は2倍前後で推移する。人手不足の一方、雇用のミスマッチから潜在的な求職者は多い。県内の待機児童は638人に上り、女性の労働力をどう生かすかが喫緊の課題だった。
 早瀬社長は次々と手を打つ。業界の常識を破り、賃料の安い郊外に広めの店を構え、託児室を併設。保育士の人件費も生み出した。

 雇う美容師約100人のうち半数と、より自由に勤務できる業務委託契約を結んだ。技術者に場所貸しする形態で、美容師は売り上げの45%を得られる。
 業務委託で働く石巻店の佐々木祥子さん(55)は震災時、別の美容店で被災した。ラポールには2年前に転職。「予約の埋め具合を自分で決められる。孫の学校行事にも参加できるようになった」と喜ぶ。
 早瀬社長は次のスタイルを描く。訪問美容室だ。被災地の顧客は中高年が多く、高齢化が進む。「美容師が自宅に赴き、買い物などの困り事も解決したい」
 働く人と家族、客、地域。それぞれを満たすビジネスモデルが被災地で育つ。
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 企業の社会的責任(CSR)。21世紀、世界の企業に浸透し始めた概念だ。東日本大震災後、東北の被災地には無数の企業が足を踏み入れ、試行錯誤を重ねた。艱難(かんなん)の地へ、生活の糧を、癒やしを、希望を。企業を突き動かした衝動は何だったのだろう。あれから間もなく6年。CSRを足掛かりに、あの日に返って経済社会を展望する。見えてくる明日を、私たちは「トモノミクス」と呼ぶ。