熊本地震で住宅などが被災して新たに借り入れをする「二重ローン」の解消を目指し、金融機関が債務の減免に応じる「被災ローン減免制度」が、東日本大震災の教訓を基に運用の実効性をより高めつつある。発生から1年の制度利用申請、成立件数はともに低調だが、関係機関との協議に時間をかけ、対象の債権者に公的機関を明確に位置付けるなど被災者が利用しやすい環境の改善が進んでいる。(報道部・畠山嵩)
 熊本県弁護士会などによると、申請は14日現在614件で、うち30件の減免が成立した。東日本では同じ1年間で申請が664件、成立は60件。申請は同程度だが、熊本の成立件数が伸び悩む。
 国が当初、約1万人の制度活用を見込んだものの、6年間で成立が約1300件にとどまる東日本をさらに下回る状況だが、同弁護士会は「成立件数は今後、一気に増える」とみる。
 期待の背景には、東日本を教訓に積極的な制度活用へ向け、関係機関との協議を充実させたことがある。
 東日本では金融機関も含め制度の周知不足が指摘された。熊本県弁護士会は地震発生の約2週間後、仙台弁護士会の弁護士らを招いて制度の運用に関する研修会を開催。弁護士約20人のプロジェクトチーム(PT)を発足させた。
 いち早く動きだしたPTが注力したのは、仙台弁護士会から指摘を受けた金融機関によるリスケジュールの問題だった。リスケジュールは金融機関がローンの支払期間を延長する措置。月々の支払額は減らせるが、ローンは残ったままになる。
 一方、減免制度は要件を満たせばローンの全部、または一部が免除される。破産とは異なり信用情報登録機関の「ブラックリスト」に載ることはなく、手元に一定の現金も残せるため被災者の生活再建に利点が大きいとされてきた。
 東日本では金融機関が先行してリスケジュールを進めた結果、減免制度の活用が広がらなかった経緯がある。PTは全国銀行協会(全銀協)や熊本県内の金融機関と協議を重ね、制度の積極的な活用を働き掛けた。最終的な協議は今年2月に終了。実際の手続きは今後、本格化する。
 加えて熊本では1月、独立行政法人「日本学生支援機構」を債権者の対象にした。被災して奨学金の返済が困難な現状に対応するためで、東日本の時は当初、明確ではなかった。
 公的機関からの借り入れを対象にするため全銀協、金融庁、文部科学省などとも協議。公的機関はどこまで債権者になるのか、検討に時間を割いたという。
 PTの榎崇文弁護士(34)は「東日本を教訓に申請の間口を広げたかった。金融機関にはリスケジュールの前に減免制度を被災者に十分説明してほしいと訴えた。奨学金返済の減免も熊本で実現しないと、今後も対象にならないという思いで取り組んだ」と話した。

[被災ローン減免制度]東日本大震災で創設された「個人版私的整理ガイドライン」を基に、全国銀行協会が他の災害でも使えるよう2015年12月に策定した。正式名称は「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」。災害救助法の適用を受けた自然災害で、住宅などのローン返済が困難になった個人や個人事業主が対象。支援金とは別に最大500万円の現預金を手元に残せる。金融機関など債権者の同意が得られれば、弁護士などの支援を受けて協議を進める。簡易裁判所での特定調停を経て、債務整理が終了する。