大東亜共栄圏帝国日本の南方体験 河西晃祐 著

 1940年8月、松岡洋右外相(当時)が大東亜共栄圏構想を初めて公表し、アジアに勢力を広げる思想的な根拠となった。本書は、宣伝工作のため作家や画家などの文化人がアジア各地に送り込まれ、異民族と接触した実態に迫る。
 著者は日本近現代史を専攻する東北学院大教授。太平洋戦争中、軍人など約200万人が南方での生活を強いられ、特異な異文化交流につながったという観点から研究を進める。
 旧日本軍は開戦当初、積極的に軍事行動を内地に伝えようとした。作家の海音寺潮五郎、大宅壮一、石坂洋次郎、漫画家の横山隆一、画家の向井潤吉らを南方に派遣。前線の様子を描いた作品を出版させた。
 手記は検閲を受けたが、立ち位置は多様だった。井伏鱒二はマレー人との交流を素直に楽しみ、北原武夫は日本人に容易に従わないインドネシア人の主体性を見いだし、後に共栄圏構想への疑義を呈した。
 画家は戦場を描くにとどまらず、現地人の生活ぶりを題材とした。宮本三郎は「日本人の服装(洋服など)が混乱を極めているのと比べ、南の人たちが伝統的な服装を大切にしている」と率直な感想を残す。
 戦後の文化交流につながった事例もある。終戦直前、インドネシアの大学に赴任し、仏教遺跡を発掘した千原大五郎は72年、現地政府から推薦を受けて遺跡保存の技術指導に当たった。
 共栄圏構想が当初想定しなかった対米開戦に突き進み、同盟国とされたアジア各国が日本に抵抗した経緯も検証。「アジアの解放か支配か」という枠組みでは、とらえきれない複雑な実態を明かす。
 講談社03(5395)4415=1998円。