◎うしちゃんファーム(石巻市)リスク分散、効率化で急成長 

 岩手、宮城両県の牧場7カ所で和牛約6000頭を飼育する農業生産法人「うしちゃんファーム」(石巻市)。東日本大震災の被災を乗り越え、東北有数の畜産業者に急成長した。震災を教訓としたリスク分散や効率化が、ブランド化と規模拡大の鍵となった。

<データ基に肥育>
 「体温や息遣いは正常」「餌はやや残し気味」
 石巻市桃生町の畜舎で今春、従業員が牛の体調を厳しくチェックし、タブレット端末に入力していた。全頭に個体識別番号があり、入力したデータに基づき肥育方法を変える。
 佐藤一貴社長(40)は「各牧場からの情報は本社で一括管理する。離れていても効率よく育てられる」と強調する。
 同法人は震災当時、約1000頭の牛を育てていた。石巻市沿岸部の牛舎を津波で失ったが、同市と岩手県の内陸部にあった2カ所の牧場は無事で、壊滅を免れた。震災後、新たな災害や口蹄(こうてい)疫など伝染病のリスクを分散するため、牧場を7カ所に拡大。飼育の効率化を徹底した。
 分散化はブランド化にも好影響を及ぼした。牧場ごとに気候や環境、餌が異なり、肉質が違う牛が育った。石巻の牛は程よく脂が入った「三陸金華和牛」、岩手は赤身の「短角和牛」など20種類の独自ブランド牛が誕生した。

<売り込みに奔走>
 飼育規模と商品の質にはめどが立った。次に待ち受ける課題は、採算性と安定生産だ。繁殖農家の減少や高齢化で子牛価格は近年、高騰が続く。子牛を買って肥育する畜産のスタイルは限界が見えていた。
 「自前で繁殖できれば子牛の仕入れコストを抑えつつ、安定生産ができる」。佐藤社長は決断した。
 宮城県が開く講習に従業員を通わせた。震災前に1人だった家畜人工授精師は現在3人になり、子牛の死産は半減。繁殖用の牛も約500頭に増え、震災前の10倍になった。2024年の目標飼育総数は1万5000頭を見据える。
 「牛肉需要は国内は飽和気味だが、世界的には伸びている。海外を見れば活路はある」と佐藤社長。生産管理の傍ら、香港やベトナムなど東南アジアに何度も足を運び、自慢の牛肉の売り込みに奔走する。
 東北は良質なコメ、稲わらがあり、経験豊かな畜産農家が多かった。「東北が持つ力は大きい。畜産を再び盛り上げる」。若きリーダーが意欲をみなぎらせた。(報道部・田柳暁)