福島の花さかじいさん 森川成美 著

 「福島に桃源郷あり」とうたわれ、大勢の観光客が訪れる福島市の花見山公園。花がもたらす幸せを信じ、敷地内の山を花が咲き誇る「桃源郷」に育て上げた阿部一郎さん(1919-2013年)の生涯を、生前の阿部さんに取材して小中学生向けにまとめた。
 阿部家と花のつながりは、阿部さんの父・伊勢治郎さんが生計を立てるため、庭の草花を福島の町で売ったのが始まりだった。伊勢治郎さんは1930年、山の木を切って代わりに花を植え、たくさんの花を売ろうと決意。農学校を卒業した10代の阿部さんは、花々に覆われる山を夢見て、根気よく開墾した。
 レンギョウ、ハクモクレン、サクラ、ボタン。50年代には努力が実って、四季折々の花が咲くようになった。多くの人に見てほしいと、59年に無料開放を始めた。「花見山」の名は阿部さんが考えた。観光客のため傘や山歩き用のつえを準備、水洗トイレも作った。
 東日本大震災の年、阿部さんは「つらいときこそ花を見てほしい」と、壊れた道を補修して人々を待った。「花と人の心を通わせることが自分の幸せ」が口癖だった。現在、花見山公園は長男の一夫さんが受け継ぎ、無料開放を続けている。
 著者は57年、東京都生まれ。2009年に小川未明文学賞優秀賞。
 佼成出版社03(5385)2323=1620円。