ごつごつとした岩が連なる海辺から、砕ける波の音と共に笛や鼓の音が聞こえてくる。日本海の水平線が黄色っぽくなったころ、「夕陽(ゆうひ)能」が始まった。
 青竹としめ縄で舞台がしつらえられたのは、鶴岡市早田(わさだ)の「道の駅あつみ」。山五十川(やまいらがわ)地区で伝統の山戸(やまと)能を受け継ぐ18人が演者となった。
 「座揃囃子(ざぞろいばやし)」で、まずは舞台を清める。続くのは2人の子どもによる「恋慕の舞」。五穀豊穣(ほうじょう)を祈願する「式三番」に入ったころ、海のかなたはオレンジ色に染まっていた。
 逆光の中で演者の姿が影絵のように見える。日が落ちて残光に包まれたころ、締めくくりの「春日龍神」が演じられた。能舞台は異界さながらに海と陸のはざまに浮かぶ。
 「夕陽能が終わると、もう秋だなあと感じますよ」と道の駅支配人の佐藤直司さん(59)。夢幻のひとときは夜の闇に消え、ひんやりとした潮風が吹いた。
(文と写真 写真部・鹿野智裕)

<メモ>
夕陽能は毎年8月下旬の日曜日に道の駅あつみで開かれ、誰でも無料で鑑賞できる。26回目のことしは8月27日に開かれた。山戸能は山形県の無形民俗文化財に指定されており、山五十川地区の鎮守である河内神社にも奉納される。