フィリピンはかつて東南アジア諸国の高度成長の波から取り残され、「アジアの病人」と称された。近年は6%台の成長率を維持し、マニラ首都圏には繁栄を象徴する超高層ビルが立ち並ぶ。一方、ビル群の谷間には発展から取り残されたスラム街があり、住民は最低限の生活を強いられている。東北の小中高教師を派遣した国際協力機構(JICA)東北支部の海外研修に同行取材し、フィリピンが抱える陰の面を伝える。(報道部・山口達也)

◎フィリピンからの報告(上)路上の子ども

 マニラ市中心部のブルメントリット駅。すぐ近くに巨大な市場があり、買い物客でにぎわう。
 ここには、もう一つの顔がある。同駅周辺はマニラ首都圏でも、特に多くの路上生活者が集まる地区だ。線路に沿ってテントや小屋が並ぶ。
 子どもの姿が目立つ。学校には行っていない。生きるためだ。露店での野菜の皮むき、駐車場への車の呼び込み、花売り、靴磨きなどで得る収入は1日50ペソ(約110円)程度。食事を1回すればなくなる。
 仕事がなければ物乞いをする。5ペソ(約11円)の安いシンナーに手を出し、空腹感を紛らわす。
 フィリピン政府の統計によると、路上生活をする子どもは約25万人。出生登録をしていない子どもが多く、実際は2倍以上いるとみられている。

 路上生活の子どもは差別の対象でもある。通りがかりの見ず知らずの大人から暴力を振るわれたり、売春を強要されたりする。
 ドゥテルテ大統領による過激な麻薬撲滅対策も影を落とす。逮捕を恐れた密売人が、取引を見られたと警戒し、子どもを口封じで殺す事件も起きている。
 JICAが支援する日本の認定NPO法人アイキャン(名古屋市)は現地で子どもたちを守る活動を続ける。ブルメントリット駅の周辺に2014年、短期保護施設「ドロップインセンター」を設立した。
 子どもたちに食事やシャワーを提供し、健康と衛生面を改善させる。読み書きを教え、虐待を受けた心のケアを担う。1日に約20人の子どもが訪れる。
 アイキャンのフィリピン事務所で働く羽根友里絵さん(31)は「最終的には学校に復帰させたい。貧困から脱出するには最低限の教育が必要」と話す。

 センターに通い、今年6月、学校に復帰したビアンカさん(13)=仮名=。6人兄姉の長女で、弟や妹の面倒を見るため長年学校に行けず、路上で野菜の皮むきをしてきた。
 本来は中学1年だが、小学3年生と一緒に学んでいる。それでも苦にならない。「将来は学校の先生か医者になり、自分と同じ境遇の人を救いたい」。屈託のない笑顔で話す。
 センターで社会福祉士として働くマヤ・プルデンシオさん(31)も子どもの頃は貧しかったが、奨学金を得て大学を卒業した。
 「諦めなければ夢はかなう。そう子どもたちに伝えていきたい」

<マニラ首都圏>ケソン、マニラ、マカティなど17市町で首都圏を構成する。人口約1288万人(2015年)。経済規模は国内総生産(GDP)3043億ドル(16年)のうち4割弱を占める。大統領官邸のマラカニアン宮殿はマニラ市にある。