膝まで海につかって、竹の棒の先にくくり付けた派手なカニの疑似餌を水中で巧みに揺らす。
 「来た、来たっ」。突然の大声が響いたその瞬間、3メートルほど離れた海の中の岩陰からものすごい速さで“未確認移動物体”が飛び付いた。もう1本の棒の先端にある釣り針で引っかけ、水中から引き上げると、体長40センチほどのイシダコが体をくねらせている。
 遠浅の岩場が広がる秋田県の男鹿半島。秋になりカニや貝を狙うイシダコが磯に寄ってくると、地元で「だまし」と呼ばれる疑似餌を使った「タコだまし漁」の出番になる。
 男鹿市門前の秋山秀美さん(64)はこの時季、民宿の主人兼タコ漁師。「昔は赤い布をカニの形に切ったりして捕ってました」と楽しくてたまらない様子。
 「ほら来た」と2匹目を捕ると、また満面の笑み。民宿の客を夕食でもてなすためにも、タコだまし漁はやめられない。(文と写真 写真部・伊深剛)

[メモ]タコだまし漁には、疑似餌と針の2本の棒が必要。タコは獲物を自分のすみかに引きずり込む習性があるため、疑似餌に寄って来たら素早く引っかけないとならない。かむほどにうまみが出るイシダコは、地元ではたこ飯やジャガイモとの煮付けが定番。