秋田県にかほ市の海岸で、首都圏の生活クラブ生協が回す1基の発電用風車「夢風(ゆめかぜ)」が、都市と地方の関係に新風を吹き込んでいる。風力発電の売電益を元手に5年前、にかほ市民と生協組合員の相互交流がスタート。生活クラブに食材を提供し、「消費材」(組合員が共同購入する商品)を共同開発する間柄に発展した。都市と地方が自然エネルギーを介し、ウィンウィン(相互利益)の関係を築く地域間連携のモデルとして注目を集める。(報道部・長谷美龍蔵)

◎にかほ・風車プロジェクトの5年/(中)好機

 秋田県にかほ市象潟町の伊藤製麺所で、3代目を継ぐ伊藤実さん(42)が黄色い乾麺を手際良く袋詰めする。
 市特産のマダラの魚醤(ぎょしょう)をスープに使ったラーメン、その名も「タラーメン」。しょうゆ味の袋には、忘れず「夢風(ゆめかぜ)」シールを貼る。

<毎月1000袋超出荷>
 生活クラブ東京、神奈川、千葉、埼玉4生協の組合員向けに販売する「夢風ブランド品」の証し。毎月1000~1500袋を出荷する。主力の乾麺うどん製造の合間を縫い、先代の父と二人三脚で作業する。
 にかほ市に発電用の風車「夢風」を建てた4生協は2014年、立地地域への貢献の一環として、市の特産物を使った消費材(組合員が共同購入する商品)づくりに乗り出した。各生協が地元の加工業者や酒蔵などと組み、「夢風ブランド品」の共同開発を進めた。
 これまでに純米大吟醸酒「夢風」、ハタハタのオイル漬け、イチジクの甘露煮、マダラのしょっつる(魚醤)など5品を世に送り出した。生活クラブ東京と伊藤製麺所が手掛けたタラーメンは目下、1番人気だ。
 タラーメンの開発には半年余りを要した。食の安全を重視する生活クラブの基準に沿い、原材料や調理法を調整。東京の組合員が何度も製麺所に通い、伊藤さんと試行錯誤を重ねた。
 開発担当の組合員はほとんどが主婦。試食会は「おいしくないわ」などの本音が飛び交った。「スープはあまり主張せず、ほんのりタラ味で」という独特の主婦感覚を伊藤さんが読み解き、要求に応えた。
 「お客さん、それも首都圏の消費者の声を聞くことなど、秋田に居ては皆無に等しい。貴重な経験になった」と伊藤さん。夢風が運んできたビジネスの好機をしっかりと手繰り寄せる。

<新たな経済循環>
 風力発電から、風車を建てた地域との消費材開発に事業を広げた4生協。生活クラブ神奈川専務理事の半沢彰浩さん(58)は「自然エネルギーを縁にした地域間連携により、新たな経済循環をつくるというチャレンジ」と狙いを説明する。
 半沢さんによると、夢風を介した交流の経済効果は、夢風ブランド品の開発や共同購入、組合員の現地訪問、芹田地区のトマト生産などを合わせ、年間約3000万円に達するという。
 芹田地区に支払う土地代、市に納める固定資産税など、風車の立地に伴う直接効果は年間400万円余り。地域間連携が、にかほ市に計り知れないインパクトをもたらしている。
 夢風ブランド開発生産者連絡会会長の三浦悦朗さん(58)は「首都圏の市場とつながり、生産者は自信を持ち始めた。この先、交流の域を脱し、ビジネスとして発展させられるかどうかだ」と課題を見据える。