秋田県にかほ市の海岸で、首都圏の生活クラブ生協が回す1基の発電用風車「夢風(ゆめかぜ)」が、都市と地方の関係に新風を吹き込んでいる。風力発電の売電益を元手に5年前、にかほ市民と生協組合員の相互交流がスタート。生活クラブに食材を提供し、「消費材」(組合員が共同購入する商品)を共同開発する間柄に発展した。都市と地方が自然エネルギーを介し、ウィンウィン(相互利益)の関係を築く地域間連携のモデルとして注目を集める。(報道部・長谷美龍蔵)

◎にかほ・風車プロジェクトの5年/(下)還元

 「秋田に風車を建てるだけなら、原発と同じだ」
 発電用の風車「夢風(ゆめかぜ)」を建設した縁で、生活クラブ東京、神奈川、千葉、埼玉の4生協が5年前、にかほ市と始めた交流は、組合員からの指摘が発端だった。

<震災で流れ変化>
 4生協が風力発電への参入を検討し始めたのは、東日本大震災前の2010年8月。「自分たちのエネルギーは自分たちでつくる」を基本姿勢に、当初はエリア内の千葉県で風車を稼働させることを目指した。
 だが、安定的な稼働には千葉県の風は十分ではなく、事業が成り立つかどうか心配された。「回らない風車を建てても仕方ない」と方針転換を決め、風の強い東北の日本海側を選んだ。
 結果として、首都圏から遠く離れた地に風車を建て、電気も利益も吸い上げてしまう構図になった。一部の組合員には、これが地域資源の「搾取」と映った。
 時を同じくして起きたのが、11年3月の福島第1原発事故。生活クラブ神奈川専務理事の半沢彰浩さん(58)は「4生協の風車計画は、流れががらりと変わった」と思い返す。
 首都圏の電気は福島県が供給元だった事実を知り、「自分たちも風泥棒になってしまう」との懸念が広がった。「地域に資する風車」を目指し、ウィンウィン(相互利益)の関係を築く試みは、ここから始まった。
 4生協は夢風稼働後の13年8月、にかほ市と「地域間連携による持続可能な自然エネルギー社会に向けた共同宣言」を締結。11月には連携推進協議会を設立し、本格的な交流をスタートさせた。
 交流資金は年間9000万円に及ぶ夢風の売電収入を充てた。夢風ブランド品の開発費も、組合員が研修で現地を訪れたり、生産者が首都圏の物産展に参加したりする経費も支出し、地域に還元した。

<条例制定目指す>
 風車が回り、人、物、財が循環する-。自然エネを介した都市と地方の連携モデルが確立されつつある。半沢さんは「このモデルを他の地域に少しずつ広げていきたい」と構想を描く。
 にかほ市も、夢風がつないだ5年余りの交流にヒントを得て、自然エネ事業の利益を地域に還元させる条例の制定に動きだした。
 市内に風車や太陽光パネルを整備し、新たに発電事業を始めた企業などに利益の一部を基金に拠出してもらい、景観保護や教育といった分野の財源に充てる。
 市企画課長の佐々木俊哉さん(57)は「夢風の存在により、地域の資源は地域のために使うという意識が市民に芽生え始めた気がする。利益の還元を新条例で『見える化』したい」と話す。
 夢風が回るその先に「エネルギー自治」の姿が見えてきた。