秋田市の弁護士津谷裕貴さん=当時(55)=が2010年、110番で自宅に駆け付けた警察官の前で刺殺された事件の国家賠償請求訴訟の判決で、秋田地裁は10月、遺族らの秋田県(県警)への請求を棄却した。警察官の過失の有無を巡り、判決は現場での状況認識などに問題があったと指摘する一方で、県警側の一連の態様に不法行為は認められないと結論付けた。真相が究明されないまま事実関係の評価と争点に対する判断が複雑に入り組み、問題の本質や責任の所在を見えにくくした印象が拭えない。

◎国賠訴訟で地裁判決

 主な争点と地裁の判断は表の通り。判決は臨場した警察官2人の対応について、「役割分担、連携が適切に行われていれば、(津谷さんが殺害されるという)結果が回避された可能性を否定できない」と言及した。
 しかし、県警による事件の検証結果を引用して「凶悪事件の発生が少なく、突発的事案に対応できるだけの訓練や意識の涵養(かんよう)が十分でなかった」ことを挙げ、「個々の警察官の不法行為を認めるのは相当でない」として原告の請求を退けた。
 秋田県の刑法犯認知件数は、全国と比べて少ない。だからといって、警察官の対応能力が低くても許される理由にはならない。
 警察法は警察の責務を、個人の生命、身体、財産の保護や犯罪の予防、捜査などに当たることと定めている。県が旗印に掲げ、県民が追求する「安心安全」のため、警察官の役割は大きい。
 判決は、県民の期待に応えるよう準備する責務が果たされていたとまでは言えないと、県警を酷評した。その半面、この責務は「一般的、抽象的なもの」だとして裁量の余地を認め、県警の責任を否定した。
 つまり、津谷さんの命が狙われていると知りながら行動しなかったのでなければ、県警の責任は問えないということだ。訓練不足で県民の命を守れなくても法律上は仕方ないとも受け取れる判断で、県警の存在意義を否定したに等しい。
 津谷さんがどこで、どのような状況で刺されたのかという、捜査に関する地裁の判断にも疑問が残る。遺族側は警察官2人が津谷さんを犯人と勘違いし、廊下で両腕をつかんでいる状態で刺されたと主張。その根拠の一つは廊下の血痕だった。
 県側は津谷さんが刺された場所を特定しないまま、廊下が刺傷行為の現場ではないとし、血痕は事件後に凶器から落ちたものだと反論した。警察官が血の付いた拳銃と刃物を、押収した寝室から廊下に移していたからだ。
 判決は「凶器を移動させる必要性はない」「現場保存は不適切」と指摘しながら、凶器を移動させた際に血痕が付着した可能性を否定できないと判断した。不必要で不適切な行動を取った県警側の主張を追認した格好だ。
 津谷さんの妻良子さん(60)が最終弁論で述べた「110番しなければよかった」という後悔は、もはや拭い去ることができない。
 裁判は仙台高裁秋田支部で続く。重大な結果が生じた場に警察官が深く関わっていた事件だからこそ、真相をより詳しく解き明かして分析、評価する努力が求められる。(秋田総局 藤沢和久)

[津谷弁護士殺害事件の国家賠償請求訴訟]2010年11月4日早朝、菅原勝男受刑者(73)=殺人罪などで無期懲役=が、離婚を巡る裁判で元妻の代理人だった津谷裕貴さんを刺殺。妻良子さんら遺族は現場の警察官の対応が不適切だったため殺害されたとして、秋田県と菅原受刑者に総額約2億2300万円の賠償を求めて提訴した。一審秋田地裁は10月16日、県に対する請求を棄却し、菅原受刑者に約1億6480万円の支払いを命じた。遺族と菅原受刑者はともに判決を不服として控訴した。