日本学術会議の臨床医学委員会は、東京電力福島第1原発事故に関する報告書「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題-現在の科学的知見を福島で生かすために」を公表した。事故によるがん発症率への影響は小さいと結論付けた国連科学委員会の調査報告書を支持する一方、子どもの被ばくに関する不安が横行する社会状況を憂慮。被災者に配慮した説明の重要性など専門家の対応を求めた。
 国連科学委は2014年4月、事故による福島県での明確ながんの増加は「予想していない」とする報告書を公表。日本学術会議は報告書の科学的根拠をチェルノブイリ原発事故との比較や世界保健機関、国内外の研究論文などで検証した上で、国連科学委の見解に理解を示した。
 一方で「国や地方自治体などは国際機関の評価結果の浸透に努めているが、子どもの健康影響に関する不安は根強い」と強調。その背景として研究者が「リスクは小さく容認できるとする基準」と一般社会の「リスクがゼロでなければ容認できないとの認識」に事故から6年半以上たっても隔たりがあると指摘した。
 福島県が全県民を対象にした県民健康調査の集計結果を巡っても各専門家の解釈の相違があり、結論は数十年後にしか分からない点が不安に拍車を掛けているとした。
 小児甲状腺がん発見のために超音波診断を大規模実施した結果、過剰診断や異常が早期発見された子どもと家族の精神的負担も増しているとする課題も提起。
 被検者の子どもや家族へのケアの重要性を訴え「誰のため、何のための検査なのかという原則に立ち返り、医療倫理面からも調査の在り方について議論を深める必要がある」と提言した。
 日本学術会議は放射線防護・リスクマネジメント分科会が15年1月~今年7月に議論し、「子どもの放射線被ばくの影響」「放射線の影響をめぐるさまざまな見解」「提言に向けた課題の整理」の3点について9月に報告書をまとめた。
 同分科会委員で東大大学院人文社会系研究科の一ノ瀬正樹教授(哲学)は「放射性物質で多くの人が不安になったのは事実で、国連科学委の報告書には不安を抱きながら事故後をどう生きるのかという視点が欠けている。専門家は丁寧に説明し、国民全体で考えることが大事だ」と話す。