東日本大震災と東京電力福島第1原発事故をきっかけに、地域の天然資源を活用した発電事業に地元主導で取り組む動きが広まっている。地域外の大企業に電気と利益が吸い取られる「植民地型」を脱し、恵みを地域に還元したり、なりわいづくりにつなげたりする仕組みが特徴的だ。自然環境を生かし、エネルギー源の分散立地を目指す「エネルギー自治」が、穏やかに姿を現してきた。

◎福島・土湯温泉/電力+エビ養殖/観光地 再生のモデル

 大震災と原発事故で苦境に立たされた福島市の温泉街で、地熱などの豊富な天然資源を活用した観光地再生が進む。
 市郊外の山あいにある土湯温泉街から約2キロ上流の養殖場。ふ化して半年で体長10センチ弱に育った3万匹のオニテナガエビが、水槽を泳ぎ回っていた。刺し身などに向く東南アジア原産の大型種で、25度前後の温水を掛け流しにして育てている。
 エビ養殖は、温泉組合など地域が全額出資したまちづくり会社「元気アップつちゆ」が今年5月、「にぎわいづくりの目玉にしよう」と始めた。まずは温泉街に来年度設ける予定の釣り堀で活用するという。
 温水は、近くにある温泉井戸の約140度の蒸気や熱水で沸点36度の液体を気化させてタービンを回す「バイナリー発電」を二次利用。発電後の冷却水(約21度)に温泉水(約65度)の熱を与えて約25度に加温して水槽に流し続ける。
 バイナリー発電は、豊富な地熱や水を地元の産業育成や活性化に生かそうと、同社が2015年に始めた。温泉熱による出力400キロワットは国内で少ない大規模な成功例だ。
 土湯温泉は震災後、旅館16軒のうち5軒が廃業する危機を迎えたが、今やエネルギー自治の先進地として人を呼び込む。元気アップには昨年度、有料視察などで全国や海外の研究者ら約2500人が訪れた。
 再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)の売電収益は、地域の高校生と高齢者向けの無料バス定期券の発行にも充てられるなど、地域に還元されている。
 加藤勝一社長は「再生可能エネルギーがあっても発電を域外の企業に任せては、まちの再生につながらない。自らやるからこそ特色あるまちづくりに結びつけられる」と話す。


◎長野・飯田/全国初「地域環境権」/目的は住民自治確立

 長野県飯田市は13年4月、「地域環境権」を住民に保障する全国初の条例を施行した。地域の自然資源は住民の「総有」財産で、そこから生まれるエネルギーは住民が優先的に活用できるという権利だ。
 条例の仕組みは図の通り。地域づくりで発電事業を始める住民団体が地域環境権を行使できる。専門家による審査会に申請し、公益性や事業性などが確認されれば、市長が公民協働事業として認定。市から融資の際の信用補完や無利子貸し付けが受けられる。
 全校生徒650人の市旭ケ丘中は16年3月、校舎の屋上を使い、太陽光発電を始めた。発案した生徒会が地域住民の賛同を取り付け、学校と住民自治組織が協議会を設立。地域環境権を行使し、市民ファンドで太陽光パネルを設置した。売電収益は生徒会が企画した地域活動に充てている。
 発電事業をきっかけに、中学生と地域住民の継続的な交流も始まったという。条例を担当する市環境モデル都市推進課の有吉拓人主事(32)は「地域環境権の行使が地域活性化に結び付いた好事例」と説明する。
 全国有数の日照量を誇る飯田市。地元企業のおひさま進歩エネルギーが、初期費用なく太陽光パネルを設置できる「0円システム」をつくり、自然エネが広がった。「地域資源は地域のもの」という意識も高まり、市外企業が地元の合意なく発電事業を始めることには、住民が自然資源の「搾取」と厳しい視線を注ぐ。
 有吉主事は「地域環境権は自然エネを増やすことだけでなく、地域の資源を使い、住民自治を確立することが目的」と強調する。


◎宮城・丸森/ひっぽ電力/耕作放棄地で太陽光

 宮城県丸森町筆甫地区では昨年9月、住民有志7人が運営する「ひっぽ電力」が太陽光発電を始めた。県内で数少ない地域主導型の自然エネルギー発電事業。山村の耕作放棄地に太陽光パネルを設け、疲弊した地域の生活維持に売電収益を充てる将来像を描く。
 廃校になった旧筆甫中の校庭に出力約50キロワットの施設を置き、FITで全量を生協系の新電力「パルシステム電力」(東京)に売電する。来年度には地区の耕作放棄地計13カ所に施設を構え、出力も約680キロワットに増やす計画だ。
 地区は福島県に隣接し、原発事故で放射能汚染の被害を受けた。地産地消型の発電理念に共鳴し、地区関係者約40人が出資などで支援する。
 目黒忠七社長は「原発事故で地区の過疎は加速してしまった。売電収益は借金を返した後、地域生活のサポートに使いたい」と語る。