自らブドウ畑を耕し、畑近くに醸造所を構える本格的なワイナリーが増えている。ワインは中国・唐時代の詩人王翰(おうかん)が「葡萄美酒 夜光杯」とうたったように古今東西で醸され、その土地土地で愛されてきた。東北の風土に根差すワイン造りの現場と、東北に影響を与えたワイナリーを訪ねた。(報道部・菊間深哉)

◎(下)カーブドッチワイナリー(新潟市西蒲区)

 日本海と里山に挟まれた新潟市西蒲区角田浜の砂丘に、ブドウ畑が広がる。
 カーブドッチワイナリーが1992年、ブドウを植えたのが始まり。8ヘクタールの自社畑に白ワイン用のアルバリーニョなど約20種。年間8万本(750ミリリットル)を生み出す。

<仲間増やし拡大>
 今やこの一帯に5軒のワイナリーが連なる。レストラン、カフェ、パン工房、スパ、ホテル、結婚式場…。カーブドッチは仲間のワイナリーを増やし、集客施設も建てた。ワイン生産地にとどまらず、年間30万人が訪れるリゾート地としても知られるようになった。
 ワイナリー5軒でつくるグループ「新潟ワインコースト」が10月に開いたワインフェスタ。各ワイナリーの逸品を飲み比べ、ブドウ畑でゆっくり過ごそうと、ファンが遠方からも足を運んだ。
 カーブドッチが目指すのは、ここ30年ほどで急成長を遂げた米国カリフォルニア州ナパ。400軒近いワイナリーが集中し、食やスポーツを組み合わせるなどした体験型観光で全米屈指の人気旅行先となった。伝統を誇る欧州のワイン銘醸地と肩を並べつつある。
 「うちのテーマは『時』」。カーブドッチの共同創業者で代表の掛川千恵子さん(67)は明かす。
 その胸中は「ワインを楽しみ、癒やされ、長く滞在してもらう。社会の持続のために人間が大切にすべき価値観がこの田舎にはあると広めていきたい」。

<起業のヒントに>
 ブドウ畑には、都会よりもずっとおおらかな時間が流れる。カーブドッチで修行後、2006年にフェルミエを開業した本多孝さん(50)も、角田浜で「時」を考えた一人だ。
 大手証券会社を辞め、家族で古里に戻って起業した本多さんは「四半期ごとに成果を出すことに追われる資本主義から見たら、毎年自然の恵みを受け、代々畑を守るなんて逆行している。でもワインが世界中に残っているのは、そのことに価値があるからだ」と言い切る。
 角田浜の風土に根差す人間と美酒は、東北の人々も魅了する。仙台秋保醸造所(仙台市太白区)代表の毛利親房さん(49)は、個性の違うワイナリーが集まる角田浜を訪れ、開業の意志を固めた。
 東北のワイナリー連携、広域型ワインツーリズムを進める毛利さんは「事業を多角化し、仲間を増やしてワイン産地を形成したカーブドッチに起業のヒントをもらった」と振り返る。
 角田浜で生まれた価値観や生き方が、東北、世界と緩やかに手を結ぶ。