岩手県立博物館による東日本大震災で被災した文化財の修復事業が、折り返しを迎えた。現場は作業のスピードアップを目指してさまざまな工夫を重ねてきたが、前例のないプロジェクトだけに難問山積。修復のプロが日々、試行錯誤を繰り返している。
 修復の工程は「洗浄」が大半を占める。筆やはけで泥を除去し、薬剤に20分ほど浸して除菌。さらに真水に漬けて塩分を抜く。
 本年度は古文書などの脱塩工程を見直す。これまでは資料の散逸を防ぐために冊子ごと浸していたが、とじ糸を外して1枚ずつ漬け込む方法を取り入れる。
 下処理の手間を要するものの脱塩効率が向上し、水にさらす時間も従来の5日から2日に短縮できるという。
 昨年度は水に弱い文化財用に短時間で脱水できるプレス機を導入。穴の開いてしまった紙に繊維を流し込んで補修する「漉(こ)きばめ機」も文化庁の補助でレンタルした。
 さまざまな工夫で作業が加速する一方、既に修復を終えた文化財で新たな問題が発生している。洗浄したはずの紙資料の一部から腐臭が漂い始めたのだ。
 原因は、ヘドロに含まれる有機物が時間の経過とともに分解されたためとみられる。問題の発生した紙資料は、医療用の中性洗剤に浸して殺菌する手順を加え、修復作業をやり直す。
 未修復の紙資料は、まだ約5万点あり、回収から7年がたった今も冷凍保存されている。損傷が激しく、長時間水に浸すと破損する恐れがあるため、新たな修復技術の確立が急務だ。
 素材が厚くて脱水用プレス機を使えない洋紙製文化財は、絵画の修復に用いられるシート状のゼリーを押し当てて塩分を吸着する手法の応用を検討している。
 津波で浸水した文化財の修復法を確立してきた県立博物館の赤沼英男首席専門学芸員は「ここで方法論を構築できれば、次に大災害が起きたときの文化財修復に必ず役立つ」と、挑戦を続ける構えだ。