安倍政権で不祥事が相次ぎ、憲法改正論議は深まっていない。自民党が示した改憲4項目の他にもテーマは多岐にわたる。東京電力福島第1原発事故の避難者支援、若者の労働問題や政治参加に取り組む団体の代表者に憲法を巡る課題を聞いた。

◎NPO法人とみおか子ども未来ネットワーク理事長 市村高志さん

 -原発事故で、福島県富岡町は昨春まで全域で避難指示が続いた。
<理念と違う現実>
 「突然、避難の当事者になり、苦しいし悩んだし、訳が分からなかった。東日本大震災の前までは憲法の存在を感じないで生きてこられたが、足元から見詰め直すと、憲法の理念とこの国の現実がなぜこんなに違うのか疑問だ」

 -NPO活動の傍ら大学院で公共政策を学ぶ。
 「憲法で地方自治の定義は4条しかない。改めて概念を考えると驚きがあるが、地方公共団体の裁量権が相当多く、住民の合意形成や多様性を尊重していると解釈してもいいと思う。ところが、被災地では『憲法-法律-条例』という立て付けでみると、行政は法を守ることを重視するだけで、多様性がないがしろにされている」

 -具体的には。
 「放射能や防潮堤の問題で合意形成を図るのは難しいが、行政はその責務を果たさず、『合意がないと法律や条例を制定できないし、政策も打てない』と避難者や被災者に追い打ちを掛ける。11条の基本的人権の尊重、13条の幸福追求権にそぐわない」

 -原発事故による避難は憲法の文脈でどうか。
<第三の道 尊重を>
 「22条の居住移転の自由に関わる問題だ。放射能汚染など不安の要素があまりにも大きく、戻れない人たちがいる。低線量被ばくの健康問題を含め、健全な生命を維持する環境を自ら手に入れるのは、25条の生存権の行使と言える」
 「帰還する、元に戻すことが復興の大前提になっていて、避難者への支援は縮小されている。古里に帰る権利、離れる権利に加え、第三の道として『いずれ戻るために避難を続ける権利』も尊重されるべきだ」

 -復興政策と憲法との整合性は取れているか。
<ハード事業優先>
 「避難しても、残るにしても、苦しい現状に変わりはない。一人一人が求めてやまない安心安全な生活、幸福追求権は軽視されていないか。国家権力を縛る憲法を、国民を縛るものだと勘違いしている者が政治家の側にいる」
 「復興は地域の話、憲法は人の話。これが一つの乖離(かいり)だろう。(帰還困難区域の一部で除染やインフラ事業を国費で行う)『復興拠点』は単なる土地の整備にすぎず、津波被災地では巨大防潮堤が最たるもの。被災者へのソフト事業より、空っぽのハード事業が優先されている」

 -震災と原発事故が憲法に投げ掛けたものとは。
 「極限の状況に陥り、日本全土が揺らいだ。政治主導の政策決定はたがが外れたように感じる。しょうがないよねというスタンスで『これもOK、あれもOK。じゃあ改憲も』といった雰囲気を醸し出した。(関連死を含め)2万を超える人が犠牲になり、多くの被害が出た現象を簡単に捉えているような気がしてならない」
(聞き手は東京支社・瀬川元章)