津軽海峡に面した過疎の村、青森県佐井村に漁師を志す若者がやって来て1年が過ぎた。後継者不足の特効薬と期待して村が始めた「漁師縁組事業」。地域で手ほどきを受けながら、一人前の漁師を目指す男たちそれぞれの悲喜こもごもの日々を追った。(むつ支局・勅使河原奨治)

◎元警察官 世良昌士さん(29)=札幌市出身=

 ちょっとだけ失恋の痛みを引きずっている。
 「あんまり聞かないでくださいよ。漁師の恋って簡単にはいかないものですね」

<婚活ほろ苦く>
 青森県佐井村の漁師縁組事業で昨年の春、札幌市から移住してきた世良昌士さん(29)は、村でひと夏の恋を経験した。
 「縁結びの岩」と言われる佐井村の名勝、願掛(がんかけ)岩に臨む公園で昨年7月、村主催の婚活イベントが開かれた。
 同じ漁師縁組で移住してきた松本大祐さん(35)に誘われて参加し、世良さんだけが弘前市の会社員女性との交際に発展した。
 だが、長くは続かなかった。2人の距離は直線で約100キロ、道のりで約200キロ。漁師と会社員の生活スタイルの違いを埋めきれなかった。
 「こっちで結婚するのは難しい。地元の漁師は高齢化が進む。パートナーを組んでも、いつまで一緒にやれるか分からない。だからこそ1人でもやっていける漁業を見つけ出さなければならない」

<価値ある挑戦>
 佐井地区や牛滝地区で定置網や刺し網、ヒジキ採り、ワカメ養殖などを学んだ。イカ、ウニ、アワビ、ノリ、タイ、ヒラメなど水揚げの種類は豊富だが「収入の柱になる量ではない」と世良さん。
 平均年齢が60歳を超える村の大半の漁師と違って、年金を頼りにするわけにもいかない。
 比較的に収入が安定する定置網を買うお金もなければ、入れる場所もない。世良さんは、佐井村漁協が津軽海峡で成功したばかりのホタテ養殖に懸けてみようと思っている。
 しける日が多い津軽海峡でのホタテの試験養殖は、挑戦しては失敗の繰り返しだったという。陸奥湾での養殖とは状況が異なる。軌道に乗るかどうかはまだ手探り状態だ。
 「何年先になるか分からないからこそ、若い自分が挑戦する価値がある」
 元は警察官で剣道2段。意志は強い方だ。札幌の大学を卒業後、父の背中を追い北海道警に入った。間もなくがんが見つかり、闘病のため離職した。幸い、手術と投薬治療で完治。自然と共に自分の力で生きていける仕事を求めるようになり、漁師にたどり着いた。
 「漁師縁組の自分たちが、後継者不足に悩む地域のフロンティア。今までと違った魚の売り方にもチャレンジしたい。自分たちが成功すれば、地元の子どもたちが後に続くはずだ」