山形市郊外の温泉施設の露天風呂で、初老の男性に話し掛けられた。「下の方がぬるいよね。普段はこんなじゃないんだけど…」
 「はぁ」。曖昧にうなずくと、男性は「今年は寒い上に特別、地面が冷たい。だからだよ」と身を乗り出してきた。初めから、それが言いたかったようだ。
 地元の農家で、トマトを中心にビニールハウスで野菜を作っているという。ハウスの暖房を強くしても、土の温度が低く、例年になく生育が悪いのだとか。
 「道理で野菜が高いわけですね」と答えながら、ふと、十数年前に取材したイチゴ栽培の現場を思い出した。クリスマス需要がピークに達する12月のことだ。
 極限まで光合成の効率を高めるため、夜明け前に一気に大量の重油をたいてハウス内の温度を上げ、二酸化炭素を充満させる。
 当時は「何もそこまで」と感じたものだが、農家にとっては高値で売れてこそなのかな、とも思う。
 「油代に2、3万円使っても5、6万円は稼げっから、ウチはまあいいんだ」
 男性の話はいつの間にか自慢に変わっていた。湯は相変わらずぬるく、体はなかなか温まらない。
(山形総局長 昆野勝栄)