棒立ちで相手に好きなだけパンチを打たせた後、必殺のクロスカウンターで仕留める-。劇画『あしたのジョー』のヒーロー矢吹丈が得意とした「両手ぶらり戦法」である。
 「そんなにオーラを出しては駄目ですよ」。2月中旬、気仙沼湾でオオワシを追った。何日粘っても現れない。イライラしながら超望遠レンズをのぞくその傍らで、鳥の生態に詳しい知人にたしなめられた。
 過去のネーチャー取材を思えば、狙った被写体が姿を見せるのは確かに、こちらの“気”が消えたような感覚になった時。弱肉強食の厳しい自然界で暮らし、人間が及ばないセンサーを身に付けているのだろうから当然かもしれない。
 ジョーのように相手の真ん前に突っ立ったのではお話にならないし、撮影者ががつがつしてもいけない。
 再びオオワシ。粘りに粘り、自分がやっと里浜の風景に溶け込んだころ。現れた。かじかんだ手とかすんだ目でシャッター一閃(せん)、会心のクロスカウンターが決まった。相手は2メートルもの翼を広げ悠然と空を駆けていったが、こちらの頭の中にはダウンシーンの残像が見えた、ような気がした。
(写真部次長 長南康一)