群雄割拠のブランド米。岩手は「金色(こんじき)の風」と「銀河のしずく」で勝負する。
 農家は持てる技量を総動員しておいしいコメを作ろうとする。それはいいのだが「今や消費者にとってコメは嗜好(しこう)品ですから」という関係者の勝ち気な一言が引っ掛かった。
 1993年は異常な冷夏だった。コメの作況指数は更新されるたびに数値が下がり、ついには「皆無作」などという寒々しい見出しが紙面に載った。
 取材先からの帰り道、水田で草刈り機を振り回す老人に出会った。青田刈りである。「こうなってしまったら、ただの雑草だよ」とうなだれていた。
 翌年以降、日本は再びコメ余りに転じた。慌てて国は飼料用米の作付けを奨励。今は生産調整の廃止が産地間競争をたき付ける。あおりで業務用米が品薄になって高騰した。私たちは一体、何をしたいのか。
 夢にも思わなかった、いっときの食糧難。あれから四半世紀がたった。老農家にもう一度出会えるのなら尋ねてみたい。「今やコメは嗜好品、ですかね」
 水をたたえて青空を映す田んぼを眺めながら、そんなことを考えた。
(盛岡総局長 矢野奨)