今でも忘れられない曲がある。「タタ、タン、タン、ターン」というリズムを口ずさめば、知らない人はいないだろう。「ねこふんじゃった」だ。
 東日本大震災の発生間もない頃、宮城県南三陸町の集会所で耳にした。お世辞にも上手とは言えなかった。ただ、5歳くらいの少女が懸命に奏でた音色は、疲れ切った被災者の表情を和らげてくれた。
 少女の自宅は津波で流された。音楽教室に通いながら一生懸命、練習していたピアノも失った。慰問に訪れた音楽愛好家が持参した電子ピアノは、少女が震災後に初めて触れた楽器だった。
 「皆さん、海が好きでしょうから…」と、音楽愛好家が演奏したのは「海」。「海は広いな 大きいな」。津波で愛する人を失った被災者を前に、その選曲に神経を疑った。演奏が始まると、たまらず集会所を出た女性もいた。
 支援は難しい。タイミングややり方を間違えば、相手を傷つけてしまうこともある。幸い、少女のたどたどしいピアノが重苦しい空気を一変させた。
 あの時の感動を上回る曲にいまだ出合えていない。
(報道部次長 山崎敦)