カメラメーカー、ニコンのファン感謝祭が先日、仙台市内で開かれた。最新のデジカメが並ぶ会場で目を引いたのは、古めかしい1台のフィルムカメラ。
 その名は「ウエムラスペシャル」。写真の腕前も一流だった冒険家の故植村直己さんが愛用していた。製造は3台のみの特注品だ。
 1976年、犬ぞりで北極圏を単独走破した植村さん。持って行ったあるメーカーのカメラが壊れて写真を撮れなかった。「北極では、人間は動くのにカメラが動かない」。いつもは人懐っこい顔の植村さんが、硬い表情で駆け込んできたと、ニコンの技術担当者が振り返る。
 室内を零下50度にしてシャッターや巻き上げを確かめたり、トランクに入れて階段から落としたり…。
 冒険家の「むちゃぶり」にも音を上げず、メーカーの技術力を結集して完成させた。これもまた立派なフロンティア精神。
 「冒険とは生きて帰ること」。そう語っていた植村さんは84年、米国マッキンリーの登頂後に消息を絶った。冒険家と一緒に、持参したウエムラスペシャルも永い眠りについていることだろう。
(写真部次長 佐々木浩明)