秋田市中心部に2012年にオープンした交流拠点「エリアなかいち」の広場の一角に、与次郎という名前のキツネの像がある。新しい感じのする石像だ。
 隣に立つ掲示板が与次郎の伝説を伝える。タイトルは「秋田~江戸を6日で往復した俊足の飛脚!」。
 さすがにキツネの飛脚はないよな、とは思った。伝説は初代秋田藩主佐竹義宣公が常陸から秋田に国替えになった当時の話になる。
 秋田に入った義宣公は神明山に久保田城を築いた。この山に長く住み、築城ですみかを失い困ったキツネが「飛脚に身を変えて義宣公の役に立ちたい」と申し出たのが始まりらしい。
 人間業とは思えない俊足の飛脚としての活躍をねたむ人も現れ、やがて与次郎は殺されたとされる。幕府に対する佐竹氏の隠密が与次郎の真の姿だとする説もある。謎めいている。
 久保田城跡本丸の「正一位與次郎稲荷神社」を訪ねた。与次郎を祭る稲荷神社の存在は、なかいち前のキツネ像に目を留めるまで意識したことがなかった。
 境内に並ぶ古いキツネの石像の前で、地域に息づく歴史の奥行きに触れる思いでひとときを過ごした。
(秋田総局長 松田博英)