作家高橋源一郎氏が著書「非常時のことば」で「掘っ立て小屋のような文章」の魅力を紹介している。一見粗末でも自分の言葉で書いた文章は胸に響く。政治家が防災服を着て発言するような「借り物の文章」よりよっぽどましだと。
 思えば自分も駆け出しの頃、デスクから「切れば血が出るような原稿を書け」と尻をたたかれた。決して「美文」は要らないから、簡潔にニュースの核心を伝えよ、との教え。言われたそばから中身の薄い冗長な原稿を出して脂汗をかいた記憶がある。
 今や人工知能(AI)も記事を書けるというが、個人的には懐疑的。整ってはいても、現場を歩いた人間でなければ紡ぎ出せない言葉があるし、血の通った文章にはならないはずだ。
 この春から主に社会面のデスクを担当している。事件事故や不祥事などの殺伐としたものから心温まるヒューマンストーリーまで、幅広い記事を扱う紙面はまさに社会を映す鏡。
 有為転変の世の中は必ずしも端正には切り取れない。時に粗末でもいいから読者の胸に響く紙面を-。そう願って半人前のデスクも脂汗をかいている。
(報道部次長 成田浩二)