記者にとって初めての原稿は忘れられない。自分の場合は少し変わっている。人物の似顔絵だった。

 1989年6月、リクルート事件で当時の竹下登首相が退陣し、宇野宗佑内閣が発足した。自民党幹事長には橋本龍太郎氏が就いた。通信社から党三役のプロフィルを紹介する原稿と似顔絵が送られて来るが、橋本氏だけ似顔絵が遅れたような記憶がある。

 「お前、漫画好きなんだよな。描いてみろよ」と先輩から言われ、写真を見ながら橋本氏の顔を描いた。「あんまり似てないけどいいや」。何と使われることに。「自民党三役の横顔」として翌日の2面に掲載された。今でも驚きだ。

 「初原稿だな」と先輩。「自分で書いた(文字の)原稿が紙面で大きく扱われたら、もっと気分がいいぞ」とハッパを掛けられた。

 データベースで恐る恐る31年前の紙面をのぞいてみた。「ハシリュウ」さんの似顔絵は下手くそ。よく使ってもらえたなあ。笑いよりも冷や汗が出る。

 その後やむにやまれず一度だけ、ある政治家の似顔絵らしきものを描いた。目立たぬように載った。誰だったのか言わぬが花。
(東京支社編集部長 吉岡政道)