子どもの頃、正月行事は長男である自分の仕事だった。秋田の農家出身の父の言い付けだったからだ。

 元日の朝は祝詞を唱え、若水をくみ、杯で年齢の数だけいただく。家の中の四隅をほうきで掃くのも習わしだった。

 七草がゆでも役目があった。祝詞を唱えながら、セリや大根の葉を包丁で刻んだ。祝詞はこんなふうだ。

 「唐土の鳥と田舎の虎と/渡らぬ先に/なにたらたたく/セリたらたたく/トントントン」

 「田舎の虎」は「田舎の鳥」が元々のようだが、死んだ父から伝えられたのはこうだった。いずれにしろ息災を願う「鳥追い歌」のようで、唐土の鳥は、今でいうインフルエンザのような疫病をもたらすとされた大陸の怪鳥らしい。

 元日の風習は、50歳を過ぎた今でも守っているが、七草がゆの方は、いつのころからかやめてしまった。

 今、新型コロナウイルスの報道が連日続き、東北にも感染が広がる。今更どうなるものでもなく、感染防止には人混みを避け、手洗いなどを徹底することしかないと分かっているが、七草がゆをしなかったことを少し後悔している。
(整理部次長 大場隆由)