わが家では今の時季、ツバキの仲間たちが殺風景な庭を彩ってくれている。すっかり役目を終えたサザンカに代わって、今度はワビスケの出番である。
 しばらく続いた寒波のせいか、例年よりも足取りが少し遅いような気がする。それでも、ようやく紅のつぼみが膨らんできた。ほころび始めると、一重咲きの花を次々つけてくれる。待ち遠しい。
 名前の由来はさまざまあるが、『広辞苑』の説によれば、豊臣秀吉が朝鮮に出兵した文禄・慶長の役の際、侘助(わびすけ)なる人物が持ち帰ったからだという。
 ワビスケはその名の通り、侘びてつつましい。そそとした姿に加えて、花に付きものの匂いがほとんどない。すっぴんの良さ。詩人の薄田泣菫(すすき だきゅうきん)は「火焔(かえん)の花びらを高々と持ち上げないではゐられない」他のツバキと比べ、「黒緑の葉陰から隠者のやうにその小ぶりな清浄身をちらと見せてゐる」と随筆でたたえている。
 木偏に春と書いて「椿(つばき)」。輝きを増す日差しの中で風に揺れるつぼみは、近づいてきた春の気配を伝えてくれる。きょうは二十四節気の一つ「啓蟄(けいちつ)」。