何度か傘を置き忘れた経験がある。正確に言うと、何度かではなく何度も。警察の統計でも遺失物の不動の1位は傘だったはずで、そう考えると、うかつなのは自分だけではない安心感も少し。
 ある作家が「できるだけ高価な傘を買ってみなさい」と書いていた。傘をなくさないコツだそうだ。高かった傘をいつも気に掛けて、夢にも置き忘れたりしない、というわけ。
 「傘の購入価格の平均は男性4000円、女性4500円」。傘に関する本にそう書いてあった。ただし、25年も前の統計で、今のように安価なビニール傘が普及する前だ。意外に、あの頃の人たちは高価な傘を手にしていたようだ。
 江戸時代、和傘は庶民にとって贅沢(ぜいたく)品だった。幕府が使用禁止令を出したこともあるという。やがて町人文化として広まり、「町の情景はあでやかに変貌していった」と、これも本の一節に。色とりどりに花開く雨の風景-。
 東北南部はきのう、北部はきょう梅雨入りした。晴れれば、何かとぞんざいに扱われがちな傘の、大事な出番の季節。