世界的な音楽家坂本龍一さんが2017年に発表したアルバム『async(アシンク)』は激動の21世紀を象徴する現代音楽だ。電子音やピアノ、自然界の音を巧みに組み合わせ、不穏な気配を漂わせつつ深遠な世界へいざなう。
 ニューヨーク在住の坂本さんは01年、同時多発テロに遭遇。東日本大震災の後、被災地支援に取り組み、原発再稼働問題などで積極的に発言した。14年に中咽頭がんを発症し、生と死の問題に直面しながら曲作りを続けた。
 asyncの全14曲を使うコンテンポラリーダンスの公演『失われないもの』が9、10日、仙台市内であった。国内外で活躍するダンサー島地保武さんと酒井はなさんらが市内に1カ月間滞在し、曲と向き合って制作した。
 時計の針を逆回転させるような腕の動きを眺めていたら、劇場全体がタイムマシンとなって太古の時代にさかのぼる感覚に陥った。人々はなぜ分断されるのか。相次ぐ災厄をどう乗り越えるべきなのか。こうした思索の先に『失われないもの』が見つかるかもしれない。