夕飯の食卓に先日、納豆汁が出た。キノコや豆腐、油揚げなどを入れたみそ汁に、すり鉢ですりつぶした納豆を溶かし込む。程よいとろみとコクのある風味。じわりと体が温まる。郷里の秋田では寒い時季の定番料理だ。
 この納豆汁、歴史は古く、室町時代には既にあった。千利休が茶会で豊臣秀吉に納豆汁を振る舞った記録もある。納豆嫌いが多いとされる関西でも、昔は納豆汁が食べられていた。
 江戸時代後期まで、納豆と言ったら、納豆汁が主流だったという。江戸では庶民は冬、納豆を包丁でたたき、汁にした。<納豆を叩(たた)き飽きると春が来る>。そんな川柳が詠まれたというから、よほど納豆汁を食べたのだろう。
 俳諧でも松尾芭蕉や与謝蕪村、小林一茶らが納豆汁を詠んだ句を残している。それがなぜか明治以降、納豆汁の文化はぱたりと途絶えてしまった。
 今は秋田や山形など東北地方の一部に残るだけ。なぜだろう? 納豆汁を食べるたびに疑問に思うのだが、書物に当たってもそれは謎だという。