作家の故北杜夫さんが書いた面白いはがきを見た。「いろいろ使える万能ハガキ」のタイトルと「賀春 暑中 寒中お見舞」などの項目が印刷され、当てはまるものを丸で囲んで使う。「合格 落第 御成婚 御離婚」の項目もあった。
 仙台文学館で開催中の企画展『資料が伝える物語』で展示されている万能ハガキ。北さんが東北大医学部に在学中に住んだ下宿の主人に宛てた。
 はがきを寄贈したのは、下宿の主人の孫に当たる仙台市太白区の渡辺不二夫さん(72)。「北さんはいつも酒を飲んで夜中に帰るため、1カ所だけ雨戸の鍵を開けていた」と振り返る。
 北さんは「気ままにさせてくれるので、私の好みにあった」と下宿の居心地の良さを書き残している。だが、その裏には訳があった。北さんの父斎藤茂吉から「息子を頼みます」という手紙が下宿の主人宛てに送られていたのだ。
 「著名な歌人の茂吉さんのお願いとあって、祖父も相当気を使った」と渡辺さん。「親の心子知らず」は、いつの時代もそうだったようだ。