技の進化が著しい世界に生きた者の言葉だからこそ、今なお胸に響く。<新手一生>。将棋の故升田幸三さんがよく口にした。自著『升田将棋』には「人の指した手は指さない」と書いている▼ここで説く「手」とは定跡にとらわれぬ戦略を表す。妙手でなく、1局全体を見通す眼である。練りに練って新たな棋風を目指すことが新手を生む。その気概はきっと「勝つことが棋士の本懐だ」という本音によって育まれたに違いない▼平昌五輪で戦う羽生結弦選手(23)はどうだろう。フィギュアスケート男子のショートプログラム(SP)で首位発進した。2位に4.10点差。この局面をどう読むか。「4回転ジャンプ5本(SP2本含む)」の時代を切り開き、世界最高得点をたたき出した者の自負もあろう。きょうのフリーは連覇に向けた「羽生風」の指し手であってほしい▼将棋といえば羽生善治永世七冠の座右の銘を思い出す。<玲瓏(れいろう)>。四字熟語から「八面」を抜き、盤上に山の頂からのような澄んだ景色を見るという意味らしい。迷いのないこの心境、どこかリンクに立つ者にも通じそうである▼「何をごちゃごちゃと、黙って見ておれ」とそろそろ読者のおしかりの声が聞こえてくる。輝くばかりの演技を見たい。絶句する準備はもう整っている。(2018.2.17)