寒さに耐えた旧満州の大連に春風が吹き始めた頃の作品らしい。<てふてふが一匹韃靼(だったん)海峡を渡って行った>。安西冬衛(ふゆえ)の1行詩『春』である。1924年に現地の詩誌に発表された。頼りなくも果敢に樺太方面を目指すチョウを励ましたいような、いや逆に力づけられるような感じになる▼3月を迎えた。弥生は草木がいやが上にも生える「いやおい」から転じた言葉という。きょうから街は若木に似た、真新しいスーツを着た若者が行き交うだろう。来春卒業予定の学生を採用する企業の会社説明会が始まる▼就職活動は光を探していく行為の積み重ねともいえる。会社が用意した資料にハッとする一文を見つけ、あるいは説明する人の一語一語を未来に投影する。一方で人手不足に直面する企業側も、売り手市場のなかで原石の光を求めている▼目を街場から太平洋の沿岸部に転ずる。「3.11」。いま日本に生きる人たちにとって特別な月である。流れた7年の歳月を語らい、将来に向けて光を得られたら、と願う。忘れてはならない記憶をもう一度思い起こす▼<濃(こまや)かに弥生の雲の流れけり 夏目漱石>。ただの雲でなく、濃い雲が大空をゆっくりと過ぎる風景が浮かぶ。どこか大海原を飛ぶチョウにも通じる。急がず、悠然と。輝く月にしたい。(2018.3.1)