3人は山へ鹿撃ちに出掛けた。獲物を見つけた生態学者が動きを想定し撃ったら右に50センチ外し、次に経済学者は左へ50センチそらした。最後の統計学者は誤差の範囲を考えて仕留めたという。欧州の科学界に伝わるジョークで、学者の専門分野の特性を突いている▼予測は難しい。動物がどう動き、事態もどう展開するかなかなか読めない。ただ、統計学者は他人の失敗例を参考にして鹿を撃つ。集めた値を大切にして、そこから答えを導く▼厚生労働省の労働時間調査である。調査に不適切なデータ処理が見つかっている。いくら何でも1日の残業が「45時間」はあるまい。このような異常値が400件を超す。仮にサンプルの記入ミスだとしても、そのまま見過ごしては労働行政のプロの名が泣こう▼この省への信頼度はどうも欠ける。「薬害エイズ」の後に問題化した「消えた年金」では、記録の不備と長年のずさんな照合が浮き彫りになった。失敗に学ばずに、逆に掛け算をして後輩に引き継いでいたのではどうしようもない▼「値を集める」の「集」の字は、「隹(すい)(鳥の意味)」が木に留まっている光景を表すという。何羽か数えて豊凶などを「鳥占い」した。安倍晋三首相はかつて年金問題を引き金に退陣している。厚労省はやはり鬼門なのだろうか。(2018.3.2)