みちのく路に春来る、を実感させてくれる年中行事は何だろう。節分では早すぎる。なら、渓流釣りの解禁はどうか。宮城、岩手両県は3月1日。他の4県は4月に入ってから。例年、新聞やテレビの話題にも上り、茶の間に季節感を提供する▼三陸地方では、海へ下るサクラマスの若魚を「ヒカリ」と呼ぶ。春光の申し子のような白銀の魚体が、さおを持つ手に生命感を伝える。奥羽山脈の谷間にもイワナやヤマメを求めて釣り人が分け入る。雪をどければ、フキノトウの緑が鮮やかだ▼福島県の河川は4月1日以降に解禁を迎えるが、阿武隈川水系や浜通り北部、中部では今年も休漁が続く。あの原発事故から7年。いまだに食品衛生法の基準(1キログラム当たり100ベクレル)を超す放射性物質が渓魚から検出される▼阿武隈川漁協(福島市)の幹部は「2018年こそ解禁と期待していたのに、昨年11月に採捕したヤマメから、基準を超えるセシウムが出た」と肩を落とす。「早く釣らせて」と愛好家はせっつくが、自然界にばらまかれた放射能を全てクリーンにする方策はない▼渓魚の塩焼きに舌鼓を打ちつつ、早春の水辺ですごした一日を振り返る。そんな時間が奪われたままの地域もある。ささやかな幸せを取り戻してこその復興。それはいつだろう。(2018.3.4)