秋晴れの下の清流にサケが水しぶきを上げる。福島県楢葉町の木戸川。ベテランの漁協組合員らが遡上(そじょう)したサケを上下流から網で追い込み、200匹余りを水揚げした。輝く魚体を両手で抱え、鈴木謙太郎さん(36)は「体長75センチ、重さ5キロほど。よく育って帰った」と笑顔を見せた▼漁協のサケふ化場長として一番忙しい季節だ。サケ漁は、東日本大震災からの施設復旧、福島第1原発事故後の同町の避難解除を経て3年前に復活。漁は今月中旬まで続き、鈴木さんは採卵、ふ化の作業に追われる▼震災前は毎年3月、千数百万匹の稚魚を放流した。全国有数の規模だったが、津波で稚魚は全滅。「生かしてやりたかった」と無念がる。住民が避難した無人の町に通い、ふ化場の除染や再建準備、サケの試験捕獲、安全検査に奮闘した▼稚魚の放流は来年が4回目。「今春の放流の数は最盛期の1割だったが、町に帰った小学生が60人も参加してくれた。復興を実感する」。そして木戸川のサケの長年のファンも帰ってきた▼ふ化場の隣では新しい加工場、売店も営業する。新鮮な切り身や新巻き、みそ漬けなどを求め、町内や県内各地、首都圏からも客が来る。生きの良いイクラは「粒が大きく、張りがある」と人気だ。サケは町の再生の希望も運んでくる。(2018.11.7)